びっくりして、しっかりと握られたその手を呆然と見つめた。

いつもは腕や首を乱暴に掴んでくるのに。


「もたもたすんな」

特に気に留めてはいないらしいアカツキが戸惑う俺をせかす。

「…あ、あぁ」

引っ張られるがままに薄暗い教室から抜け出る。


……何だろう。

不思議と足取りが軽い感じがする。

まだ先ほどのあの荒っぽいキスの感触が生々しく口に残っていた。

思い出すとまた胸が疼き出し、酩酊のようなものを覚える。


斜め後ろからアカツキの背中を見ていると、急にムラムラと抱きしめたくな…

…っと、慌てて頭をブンブン振った。目を覚ませ、俺。


アカツキは俺のほうを振り返り、見た。


「次行くところはお前が決めろよ」


「……え」


そちらを見て、思わず目を細めた。


廊下の窓からそそぐ光に照らされて、アカツキの顔が目映く見えた。

表情はいつもと変わらない、仏頂面なのに…。


……いや。違う。

その微妙な違いを俺は感じ取っていた。

ほんの少し、その顔は色づいているような感じがした。

普段のつんつんした感じではなく、柔らかくて暖かな…。


胸にじんわりとした熱が込み上げる。

この気持ちを何といえばいいんだろう…。

言葉にするのがまだ難しくて、むず痒いような気持ち。


「腹減ったんだろ。模擬店の方へ行こう」

込み上げるものを何とか抑えつけるようにしながら、そう言った。


「…お前の方が腹減ってんだろ?」


アカツキは頬を緩めてほのかに笑った。

今日、やっと、初めて笑った。


それを見て、こちらも自然と笑みがこぼれて…



不意に――。

燦々と降りそそいでいた日の光が弱まった。



光は急速に弱まっていった。

みるみるうちに胸を暗い予感が侵食していく。


『――光あれば必ず影がある』

いつか言われたその言葉をすぐ耳元で囁かれたかのような…。