その後、色々と騒がしい事になった。
「痛い痛いっ!引っ張んなっ!」
「てめぇの毛があっちこっちに跳ねてるからだっ」
「仕方ないだろ。癖っ毛なんだからっ」
薄々予想はしていたが、やっぱりアカツキの直し方は手荒かった。
毛がむしり取られんばかりの荒っぽさで10円ハゲができそうだった。
櫛で梳かしつけてはヘアピンを差していく。
力加減は容赦無いが、慣れているその手つきから察するにやっぱりアカツキは女の子なんだな、と思う。
ふと、その梳かしていた手が止まった。
「……シュン」
「何だよ?」
どこか沈んだようなその声が気になった。
アカツキは吐く息とともに言葉を続けた。
「…………勝手に遠くへ行くなよ」
「…は?」
しばらくアカツキは押し黙った。
何とも淀んだ空気が漂う。
カーテンの隙間から差し込んできた光を浴びて、目の前できらきらと無数のほこりが舞っていた。
この教室は随分と掃除がされていないらしい。
耳元でアカツキの躊躇うような吐息が聞こえた。
「…何だかお前が遠くに行ってしまいそうな気がした……それだけだ」
頼りない声が響いた。
「……どういう事だよそれ」
いぶかしみながら訊く。
遠くってどこだよ。
俺はまだ海外にすら出た事が無いぞ。
「……何でもねぇ」
けれどアカツキはそれ以上答えてくれなかった。
「ほら、できたぞ」
ばしんと背中を叩かれた。
「……いった」
最後まで荒っぽい奴だ。
アカツキはそんな事を全く気にしない。いつもの事だ。
「――行こう。腹減ったしな」
そう云うと、何気なく俺の手を掴んで引っ張った。
え、と思った。
それはあまりに、ごく自然に、
…手が、繋がれていた。

