俺はそのテーブルの傍まで近づき、カタい動きでソーサーとカップを置いた。
相変わらず言葉を発さず、軽く会釈だけをして下がる。
遠くで副委員長さんがこちらを覗いているのが、視界の端に映った。
思いっきりいい笑顔なんて作れるもんか。もうすでに頬の筋肉が痛くて強張ってしまっている。顔も筋肉痛になったりするのだろうか。
そんな事を考えていると、ちらっと一瞬その男はこちらを見てきた。
ギクッとビビった。
雰囲気が鋭いだけに、何だか心臓に悪い。
正体を見抜かれて「こいつ男だ!」とか、いきなり叫ばれたりしたら最悪だ。
だが相手はそれっきりこっちを見ようとしなかった。ホッ。
あとは一人でごゆっくり。
そう思いながら、やれやれと奥へと向かう。
もうそろそろ終わんないかなぁとか思いながら…。
その背を――、
――突如、刃のような視線が貫いた。
「…えっ」
慌てて振り返る。
先ほどのあの男の瞳と、目が合った――。
光を映さない漆黒の冷ややかな瞳が――、
真っ直ぐに俺だけを捉えていた。
そこに暖かさは少しも感じられず
かといって攻撃的な視線でもなく
全く感情の色はなく
ただ淡々と俺を見ているだけ。
まるで観察するように。
深々とその視線が刺さってくる。
表面だけではなく、奥の奥まで見定めようとしてくるように。
俺はその場に立ちとどまり、ごくりと息を呑んだ。
――何なんだ。こいつは。
戸惑いの波紋が胸の中に広がる。
誰かは知らんが、なぜそんな目で俺を見てくる?
……いや。
その顔を見て、何だか違和感を覚える。
違和感というよりは既視感か?
俺はこの男のことを、
――知っている……?
『一回会うてるやろ。船の上で。
俺と一緒におったもう一人の男や』
少し前の瀬川の言葉を思い出した。
(…この男……まさか…)
「おーい」
その声に、はっと我に返る。
そちらを見ると、「早く戻んなさーい」と副委員長さんが呼んでいた。
俺はその男から目を離し、慌てて奥へと戻った。

