反射的にトレイで相手を殴りそうになり、自制心でこらえる。
強引に手を振り払い、顔だけは何とか笑顔で。頬の筋肉が少し痙攣する。
そして脇目もふらずにそそくさと奥へと向かう。
「グッジョブよ」
そこで、副委員長さんが満足げにねぎらってきた。
「……こんなので?」
半眼で相手を見る。
「いいのよ。言葉少なな方が相手に想像を掻き立たせるものよ。聞く所によると既にこの店の評判は校内広域に及んでいるわ」
「あっそーですか」
早く今日一日が終わらないかなぁと別の事を考える。
「謎の美人メイドさんが居る、ってね」
そして含み笑いを浮かべて俺の方を見てくる。
「あなたのおかげで集客率が倍にアップよ。ほっほっほ~」
まるで悪代官のように高らかに笑う。大丈夫ですか。
「冗談はいいから、いつになったら帰してくれるんだよ?」
「そうねぇ。ずっと居て欲しいところだけど…1時間後で手を打ってあげるわ」
「はぁ…」
手を打つってどういうことだよ…と内心で息をつく。
つくづく自分のペースで話を推し進める人だ。
その後、急にどっとお客さんが押し寄せてきて、てんやわんやの忙しさだった。
しかもその大半は男性客で、気のせいか俺の方ばかりをじーっと見てくる。
そしてたまに話しかけてきたりもする。
どうやら俺が男だという事はバレてないようだが、その訊いてくる内容がおかしい。
名前を訊いてくるのが一番多いが、たまに「今、携帯持ってる?携番かメルアド教えて」とか「君みたいな子、このクラスに居たっけ?」とか訊かれてギクリとしたり。
だが喋るわけにはいかないので、それらを総無視してテキトーな笑顔を作って逃げるように奥へと引っ込む。

