「てめぇはわざわざ俺を冷やかしに来たのか?」
何だか自然とアカツキみたいな口調になってしまっていた。
「それも楽しそうやけど、ちょいと忠告しに来たんやわ」
「……忠告?」
すると、相手はそのチャラけた雰囲気を少し内に抑えながら、
「うん。今日はここに厄介な奴が来てるもんでな…」
ここには俺達以外は誰も居ないというのに、奴は声をひそめながらそう言った。
「――厄介な奴?」
それってお前の事じゃないのか?と思いつつ訊き返す。
「さっき俺も会ったんやけど、今日ここに来とるから」
珍しく渋い顔をしながら言う。
どうやら冗談で言っているのではないらしい。
「誰だよ、そいつは」
苛々と耳の裏を掻きながら、仕方なく訊いてやる。
それに対し、瀬川は真面目な表情で答えた。
「――深海翆って男や」
聞いたことも無い名前が出てきた。
「……はぁ?」
盛大に眉をひそめた。
「誰だ、そいつは」
「一回会うてるやろ。船の上で。
俺と一緒におったもう一人の男や」
「…あー。確かに何か…もう一人居たような気がするが…。ほとんど覚えてねーぞ?」
すると瀬川が「ふーむ」と天井を仰いでみてから、
「――俺より少し顔が良くて、俺より真面目で、俺より頭が堅くて、俺よりかなり性格が悪くて、言葉遣いが時代錯誤している感じでな…。
そういう奴がおったら、なるべく顔合わせへんようにしといて」
「……全然分かんねぇよ」
一蹴した。
そもそもの比較対象が間違っている。
「このクソ暑い中で、暑苦しく黒スーツ着込んどる奴やからすぐ分かると思うわ」
「だから分かんねぇって…」
全然人の話を聞かない奴だ。
耳に埃でも詰まってるのか。
しかし、そいつはこっちの気など知らぬまま、ふと何かを思い出したように、
「あっ、俺そろそろ行くわ」
学園祭のパンフレットと腕時計を交互に見ながら言う。
今日のタイムテーブルを確認しているらしい。
「イベント全制覇するのが目標やから」
慌てた様子で出て行こうとする。
「おいちょっ」
待て、と言う前に、
奴は扉を開け、既に手を振る。
「そいじゃあ、くれぐれも気をつけてな!じゃあな!」
バタン、と扉の閉まる音。
一方的にまくし立てた挙句、そそくさと去っていった。

