…馬鹿な。
後ろから襲ってきた相手を伺いながら驚愕する。
…誰かが近づく気配など感じなかったのに。
首筋には何かが押し当てられていて、金属質の冷たさを感じる。
それが「声を出すな。動くな」と無言で威嚇していた。
周囲に目を走らせるが誰も居ない。
わざと人目を離れて歩いていたのが、裏目に出てしまった。
助けも呼べず、自分で脱することも出来ない。
鮮やかすぎる手際の不意打ちだった。
それに相手に隙がまた全く見つからない。これでは逃げられない。
情けないことに俺は何も出来ないままに、無抵抗に”そいつ”に誘導されるがままにどこかへと連れて行かれた。
連れて来られた先は、近くの男子トイレ。
「……ぷはっ」
口元を押さえられていた手が離された。
すんなりと拘束を解かれた事をいぶかしみつつ、その相手を見る。
「よぅ。シュン」
へらりと笑って挨拶してくるのは、あの関西弁の派手頭――瀬川蓮だった。
手にはジッポーのライターを持っている。
首筋に当てられていた金属質のもの…ってアレだったのか。
「てめっ、何のつもりだ?」
軽く睨みつけながら尋ねる。
「いやぁ。セイラちゃんと一緒におったから、もしかしてシュンかなぁと思って後をつけてみたらやっぱり…」
先ほどの無駄の無い動きが嘘のように、ダラけた空気を放出している。
しかしこいつのペースにまんまと乗せられる訳にはいかない。
「じゃなくて、こんな妙なまねをした理由を訊いてんだよ」
苛立ちを抑えながら訊く。
するとそいつは――、
「ふーむ」
ずいとその顔を近づけ、しげしげと俺の方を観察してきた。
「……お前よぅ見ると可愛いな」
背筋が寒くなるのを感じた。
「…気色悪ぃこと言うな」
後ろへのけぞり、距離をとりながら言い返す。
「これからもその格好でいけばええのに。男の時よりモテそうやで」
ビシィッと額の血管が浮き出た。
「願い下げだ。馬鹿」
相手に殺意を覚えた。

