「はぁはぁ…」
いつの間にか全力で逃げ回っているうちに部屋の隅に追い詰められていた。
こっちは息を切らしていると言うのになぜだか相手は涼しい顔。
(何なんだ。何者なんだこいつ…)
ぜぇぜぇと荒い息を吐きつつ疑問に思う。
人間の動きじゃない。まるで虫のような俊敏さ…。
そしてその本人さんは、
「じっとしてて下さいよ、もうっ♪」
にこやかに笑いながら、すぐ鼻先へと顔を近づけてくる。
「ひぇっ」と後ろに下がろうとしてみるが、後ろは壁でこれ以上は下がれない。
「や、やめろっ。馬鹿」
「馬鹿とは聞き捨てなりませんね。夕月ちゃんと呼んでくださいよ」
その手がシャツを脱がそうと捲ってくる。
もぞもぞと。わざとやってるとしか思えない、じれったい緩慢な動作で。
しかもその触れてくる感じがすごく…、
(……こ、こ、こしょばい…)
「……や…やめて下さい。夕月さん」
耐えきれず顔を真っ赤にしつつ懇願。
「――おい。何やってんだてめぇら」
そのすぐ後ろから不穏なオーラと声が…。
「あっ。アカツキさん」
この目の前の夕月さんとやらは少しも動じず、にこーっとその笑顔を保ったまま。
「どうやら私ではイヤみたいなんで、アカツキさんが手当てしてやって下さいよ」
「……は?何言って」
訝るアカツキを、
「えいっ!!」
命知らずにもその背を豪快に押した。
俺の方に向かって――。
「……んなっ」
「…うわわわわっ!!」
ドンッガダタタ――ン!!!
派手な音を立て、もつれ合って床に転倒した。

