――西の空に夕日が沈んだ後の放課後。
武道館から大量の人が吐き出される。
俺はそれを校舎の影からこっそりと確認。
その剣道部部員の中から、すぐさま彼女を見つけ出す。
どれだけ大勢に混ざっていたって、その相手だけは一瞬で判別できる。
……居た。
目標(彼女)を捕捉。
あとはバレないように尾行。
慣れたものだ。
今までに数え切れないぐらい繰り返してきた行為だから。
……っと。
電柱越しから突然彼女の背後に忍び寄る人影を発見。
そろそろと彼女に近づいていく影。
いかにも怪しい。
いざ俺の出番。
飛びだそうとした――その瞬間、
「…このッ、強姦魔め!!」
ただ歩いていただけの筈の彼女の肘鉄が
後ろに向かって突然唸った。
背後の相手の鳩尾に突き刺さる。
続いて…、
ドガッバギッガスッ!
破壊的な打撃音が響いた。
その怪しげな人影は何もさせて貰えないまま。
呆気なく倒された。
「ふん。私を襲おうなんざ100万年早いわ」
叩きのめした相手を余裕げな笑みとともに見下ろす。
その顔は何だか楽しそうというか誇らしげというか…。
長い金髪が夕暮れ時の光に映えて、煌きながらそよぐ。
彼女こそが――、
たぐいまれな強運、
ツキを持つ女子高生。
月村明月(ツキムラアカツキ)
一部始終を離れた場所から見ていた俺は、飛びだそうとした姿勢のまま硬直。
そして硬直が解けた後、ガックシとうな垂れた。
(――彼女を守ることが、俺の役目の筈なのに…)
悲しいかな…
これは今日に限ったことではない。
いつでも彼女は自力で危機を脱してしまうのだ。

