「…こざかしい」
面倒くさげに言いながら、奴は鞄を避けた。
その隙に、俺は横っ飛びなら左手を右のシャツの袖の裏に突っ込む。
そこに仕込んでいた小さめのクナイ3本を指の間に挟み込み、取り出すと同時に相手へと投げつけた。
命中するか否かは二の次だ。
目的は牽制することだから。
敵がその攻撃に怯んだ隙に――突っ込む。
しかし…
「…ぬるいぜ」
あろうことか、
相手は飛ばしたクナイに怯まず、突進してきた。
2本は避け、1本は奴の脇腹を掠める。
にもかかわらず、勢いそのままに懐に飛び込んでくる。
「……なっ」
反射的に木刀を下段から上方へと振るった。
しかし相手はわずかに体を横にずらしただけで避けた。
そして次の瞬間、その爪先を下から振り上げてきた。
刃のような足が目の前の空気を裂く。
その鋭い前蹴りが右手に命中。
木刀が弾かれ、宙に舞う。
「くっ」
相手の動きが読めない。
その全てが予想外すぎて。
奴はさらに肉薄してきた。
蹴りを放った右足を踏み込み、軸にして、左のミドルキック。
その足を掴もうとしたが、衝撃が強烈すぎて出来なった。
体ごと薙ぎ払われ、後方の壁に叩きつけられる。
「…ぐふっ」
くぐもった息を吐き出す。
意識を刈り飛ばさんばかりの打撃だった。
ずるりと背が壁を滑る。
「はははっ」
瀬川の笑い声が聞こえる。
「これぞ肉を斬らせて骨を断つ――ってなぁ?」
見上げると、そいつの脇腹辺りがじわりと赤く染まっていた。
それでも奴は軽快に笑っている。
先ほど素手で刃を掴んでいたことといい、並みの神経じゃない。完全に頭がイカレてやがる。
「…俺は本気や、言うたやろ。お前相手に手抜きはせぇへん」
奴は俺の目を覗き込んできて、その目を見開いた。
今の隙だらけの俺にそれに逆らう術はない。
「本気出さへん甘っちょろいお前が悪い」
全てを支配してくるその目から……視線をそらせなかった。

