「…外れてる?」
思わず訊き返す。
「そうや…」
奴は深く頷き、またもや語りだす。
「普通のツキを持つ者は――たとえばそいつの思った通りにコインを表に出す事ができたとしよう。でもな、それは上手く運の流れに乗せて『表』にしただけに過ぎん。
何回かを過ぎれば、いずれ裏が出てくる。
詰まるところ、その最初の何回かは”微視的な偏り”に過ぎへんのやからな」
やたら長い講釈だが、その説明の意味が何となく形となって見えてくる。
「さっき言った”大数の法則”っちゅうのは数学的に証明されとるのにも関わらず、数学らしく”定理”とは称されとらへん。あくまで自然科学チックに”法則”や。
俺が思うに、これって自然の摂理とそう変わらへんのやからとちゃうかな?」
「…はぁ」
そんなことを訊かれても「そうなんじゃないの?」としか答えようが無いんだけど。
「要するに、いくらツキを持つ者でも巨視的に影響を及ぼす事はでけへんのや。結局は2分の1という理論的確率に収束する」
奴の掌の上のコインが独りでに宙へ浮き上がる。
マジックでよく見かける技だ。
「いくら何百回、何千回、何万回…と投げても表が出続けるとか裏が出続けるとかは不可能や。そんな事が出来たら、この世界の法則を捻じ曲げてしまうんと同義やからな。」
宙へ浮き上がったコインは、もう片方の手の中に収まった。
華麗なテクを見せつけた奴はニヤリと笑う。
「――畢竟、どんな者もこの自然の摂理ともいえる法則から抜け出す事はでけへん」
次に奴の言いたい事は分かる。分かってしまう。
「…アカツキは違うと?」
「そうや」
思った通りの肯定。
「アカツキちゃんのツキはそういう法則を無視しまくって働いとる。
それって結構危険な事やと思わへんか?」
笑ったままの顔で、けれど真面目な口調で聞いてきた。

