「…何それ?」
「アイルランドのユーロ硬貨。換金し忘れとった分でな。
…まぁそれはさておき」
指でそれを弄びながら、奴は言う。
「…お前、大数の法則って知っとるか?」
「…たいすう?」
聞き返すと、相手は底意地の悪い笑みを浮かべた。
「知らんやろな。知っとるわけないよな。お前頭悪そうやもんな」
ささやかに復讐してきよった。
どうやら以前の俺の発言を相当に根に持ってるらしい。
でも俺の方が精神的に大人なので決してキレたりなんかしない。
「何だよ。それが何かツキと関係があんのかよ」
「関係っていうか、運についてとかを考える時って大抵その『確率』について考えるもんやろ」
「そうかもしんねぇけど…」
急にそういう言葉を出されても、あまりピンとこない。
「まぁちょいと話に付き合えよ」
チャラ男は大仰にふぅと息を吐きながら、
「…お前レベルでも分かるように説明したるから」
ますます見下した目で俺を見て、ふんぞり返って言う。
「………」
…やっぱり殴りたい。
頭の血管が限界寸前まで盛り上がったところで、奴は飄々とした調子で話し始めた。
「たとえばここに何の歪みも偏りも無い理想的なコインがあるとしよう」
人差し指と親指で挟んだそのコインを掲げ見せてくる。
「これを投げるという試行を繰り返すとき、表の出る回数の比率も裏の出る回数の比率も2分の1に近づけるにはどうしたらええと思う?」
そう問題を提起し、ピンッとコインを指で上方へ弾く。
「そりゃあ、何回も投げればいいんじぇねぇの?」
「その通り」
落ちてくるコインをパシッと空中でキャッチして奴はニヤリと笑う。

