言いながら、彼女は先ほどのことを思い出していた。
――あの目。
守谷俊が自分へと突っ込んできた時のあの瞳。
戦っている者だと思えぬほど恐ろしいほどの静寂を潜めていて。
無限に映る鏡を見ているようで、瞬間的に畏怖してしまった。
見た途端に動けなくなった。
あの娘の瞳とも、また違う。
あちらは見る者を石化させるような強力な眼光だった。さながらメドゥサのような。
対比させるならば、
まるで――動と静。
「…ふぅん。
それで、あんたが欲しいのは守り手かツキかどっちなんや?」
すると雅はくつくつと笑った。
「どっちもよ。決まってるじゃない」
「ほんま…、どこまでも貪欲やな。あんたってお人は」
「だって全部、最初からあの人の物だったんだもの。そうでしょう?」
問いかけに蓮は答えず、天井を見上げながら、ふぅーっと紫煙を深く吐き出した。
「ていうかそれより…」
ちらりと雅の方を一瞥し、
「編入するにしてもなんでその格好を選んだんや?」
「ふふ…。白石星羅の姉」
雅は意味深に微笑んだ。
「そういえば、彼女はあなたの大切な人だったんでしたっけ?
この格好で、あなたを抱きしめてあげましょうか?」
蓮は目の前のローテーブルを蹴り飛ばした。
テーブルのひっくり返る激しい音が室内に響く。
「――言葉には気をつけろよ。ババァ」
「あなたこそ、レディに対する口の利き方がなってないわね」
「風魔の百面相…。変幻自在のその実体を知る者はどこにもおらへん。
そんな年齢不詳の人間のことをどう呼ぼうが勝手やろ」
蓮は煙草のフィルターを噛み、乱暴に花瓶の中へと突っ込むと、おもむろに立ち上がった。
「今は見逃したるけど、邪魔やと判断したらじきに排除したるからな」
雅はその背を見送りながら、妖艶に微笑んだ。
「……ええ。
いつでもお好きにどうぞ」
余裕を含ませた声で呟いた。
☆::::第10話へ続く:::::☆

