月村明月――彼女の心の弱みは既に掌握しているはずだった。
それを利用して、彼女の心を揺さぶり、隙間に入り込み、その心を操ることなど容易いと思っていた。
しかし…まさかそれを弾き返されるとは…。
それどころか、今の、この、娘の威圧感は何だ。
空気を震わせるほどの…。
黒装束の女は戦慄した。
「そんな馬鹿な…」
彼女の明月を見る目は、もう人間を見るそれではなかった。
後じさろうとする足を叱咤し、何とか彼女の身柄だけでも拘束しようと前へと一歩踏み出した。
――と、
その床が急に音を立ててひび割れた。
その亀裂に足を躓かせ、バランスを崩してよろめく。
倒れかける彼女の眼前にヒュンと黒い影が風のように現れた。
下から伸びる手が視界に入った。
ガッッ!!!
突き上がる衝撃に脳天が揺さぶられる。
下がる顎に掌底を食らわされたのだ。
後ろに倒れそうになる体を何とか踏みこたえた。
「ぐっ…」
女は目の前の明月を見据えた。
その瞳を見た。
その中には凄まじい何かが猛狂っていた。
背筋が凍る。
見てはいけないものを見てしまったかのような…。
まるで…これは――、
「――化け物」
本能的恐怖が彼女を突き動かした。
自然と、手に持つ鎖を振るっていた。
至近距離で、分銅が明月へ目掛けて飛ぶ。
だが、それは弾き返された。
突然、遠くから飛んできた掃除用バケツによって。
「何ッッ!!」
彼女は目をやる。
バケツが飛んできた方向を。
屋上の入り口。
扉が無くなったその空間に、先ほど屋上から落下したはずの少年――守谷俊が立っていた。

