「残念。
言い忘れてましたが、実は私、二刀流なんですよ」
涼しい顔をして言う少女。
「でもさすがですね。
あなたが峰打ちにしようとしなければ、間に合わなかったかも知れません」
「……くっ」
ギリギリと刃越しに拮抗しあう力。
釣り合いを保ったまま膠着する。
「あなたの力、本物でした」
にっこりと微笑む。
こんな状況にも関わらず、その笑顔は可憐だった。
そして、すっと呆気なく彼女の方から刀を退いた。
もはや、やり合う意思はないようだ。
それを感じ取った俺の方も刀を下ろす。
戦意を消した彼女はにこやかに俺に告げた。
「その力と意志で、どうか、明月さんを守り抜いて下さい」
俺は相手の顔をただ見つめることしかできない。
「――たとえ、この先、どんな困難があろうとも」
「……何を言って…」
意味深な言葉の意味を質そうとしたが、
「いずれ、知ることになるでしょう。
だから、今日はこれにて」
彼女は、胸ポケットから小さなボールみたいな球体を取り出す。
凄まじく嫌な予感を覚えた俺は、それを掴もうと手を伸ばしたが…。
相手はニッと笑うと、球体に刺さっていたピンを口で外した。
ぱんと弾ける音と、ぼふんと煙の噴き出す音。
あっという間に充満する煙に、思わず顔の前を腕で覆った。
それでも気管に入ってきた煙に噎せる。
「……げほっ、けほっ、けほぅっ…」
催涙ガスの類ではなさそうだ。
視界が開けた先には少女の姿は無かった。
代わりにひらひらと舞う万国旗があるばかり。
取りあえずほっと胸を撫で下ろす。
「……ふぅ」
何だか一気に力が抜けた。
「…なんだったんだろうな、あれは」
しかし、後ろの居る筈のアカツキは何も返してこない。
「……アカツキ?」
振り返る。
そこで目にしたのは迫りくる拳だった。
「……てめぇ!誰が鉄腕女だッ!!」
奴の鉄腕が俺の顔面に向かって唸った。

