男のその言葉を聞いた途端、グワッと頭に血が上った。
理屈もへったくれもない。
その時の俺は、瞬間湯沸かし器のごとく一気に沸騰した。
気づけば、その派手頭に近寄り、掴み掛かろうとしていた。
奴に洗いざらい吐かせようとしたのか、それとも自分の感情をぶつけようとしたのか、
それすら分からないままに…。
だが、俺の手は奴に届かなかった。
その前に――。
――目前にいる男の目がカッと見開かれた。
まるで相手を串刺しにせんばかりの強烈な眼光だった。
その瞬間に
”ビシッ”と体の芯から縛(イマシ)められたような感覚があった。
全身が動かない。
手どころか指の一本すらも。
「……なっ」
しかも、まるで囚われてしまったかのように奴の目から視線をそらせない。
「そんな心の隙見せたらあかんで」
ニィッとその口端が吊り上がる。
「隙に入り込んで自由を奪う事ぐらい、こちとら朝飯前や」
「…くっ」
全身に気合いを入れてみるが、まったく解けそうに無い。
おそらくは催眠術の類だとは思うが…。
動けない俺に、飄々とした口調で男は言う。
「お前とはいつか本気でヤリおうてみたいけど」
だけどまだその時やない…」
そう言うと男は背中を見せた。
立ち去るつもりらしい。
「…おいっ」
その忌々しい背に声をかける。
気になる言葉ばかり並べやがって、まだ何一つ核心に触れてないじゃないか。
すると男は顔だけをこちらに向けた。
「次会うときまで、せいぜいアカツキちゃんを大事に守っとくんやな」
それだけを言い残し、あとはもう振り返ることなく歩き出す。
肩越しに片手を上げ、ひらひらと振りながら、やがて男は姿を消した。

