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「はぁ…」
溜め息を吐きながら、渡り廊下をとぼとぼ歩く。
大変な目に遭った。
衆目の集まる中で…あんなこと…。
と先ほどの柔らかな唇の感触を思い出して
「…うわぁ~!」
思わず頭を抱えこんで叫んだ。
前から来た女子が「ひっ」と叫んで逃げ去っていくが、俺はそれどころではない。
忘れたい!記憶からの抹消プリーズ!
俺にとっては初めてのアレだったんだぞ!
しかも触れるだけのアレじゃなくて、明らかにディープなアレだった。
アレアレと代名詞が多すぎるけど、名詞として出したくない。
事実として断固認めたくない。
あの後、白石さんは満面の笑顔を振りまいて教室を出て行ったが、こっちは半分魂を抜き取られたように白くなって立ち尽くしていた。
「――守谷俊16歳、我が世の春が訪れたようだな…」
どうやら近くで状況を看過していたらしいサトシが、ぽんっと肩に手を置きながら言ってきた。
「存分に謳歌せよ」
ふっと遠い目をして俺を見る。
――と、その後ろからどかどかと何かに押しつぶされた。
「守谷ぃ~!
俺達の目ん前でデカデカ見せ付けやがって!嫌がらせか!この幸せあんちきしょーめ~!!」
クラスの男子どもに揉みくちゃにされたり…。
女子は女子で「すごい!本物のSMカップルだ」とか言って盛り上がってるし…。
不名誉極まりない。
皆さん騙されないで。
あれは罠だったんです陰謀だったんです、と声を大にして訴えたい。
アカツキはずっと怒りのオーラを発していた。
触れたら火傷どころじゃ済まなさそうだった。

