すると相手はこの不利な体勢にいながら、不敵に目を細めた。
「誰だとはつれないですね。
私は、あなたがきっと知っている筈の人物です。
…ま、憶えていればの話ですが」
「……何を…」
「――シュン!」
アカツキの呼ぶ声。
そちらを見ると、船員の手から逃れたアカツキがこちらへ走り寄って来るのが見えた。
どうやら俺がこいつを投げ飛ばしたことで、操っていた船員の方への意識も削がれたようだ。
しかし同時に。
――ドゴッッ
「……ぐふっ」
俺がアカツキに気を取られた隙を逃さず、敵が俺の体を下から蹴り飛ばしてきた。
すんげぇ膂力だ。
声からして女性の筈だが、女性のものとはとても思えない。
見事に吹っ飛ばされた。
無様に地面に転がる。
が、転がりつつもすぐさま起き上がった。
そこで俺の目に映ったのは、船の端のほうへと走り去っていく敵の姿。
「…くそっ」
後を追いかける。
しかし先を行くそいつは、いきなり船の外壁に鎌を投げつけた。
何だ?と思って、それをよくよく見てみるとそれはなんと鎖鎌だった。
刺さった鎌に繋がっている鎖を伝って、船の横面をなぞるようにするすると下へ降りて行く。
「あっ、野郎」
船の縁から顔を出すと、そいつは慣れた動きで下の下の階へと移動し、あっという間に姿を消すのが見えた。

