〇学校・教室(昼休み)

ここは、御曹司や令嬢などが通う私立。
みんな寄り集まってシェフが作ってくれた弁当箱を開いている。
オシャレな食堂でお昼を過ごす生徒たちもいる


そんなきらびやかな世界にいる人たちとは違って私、藁谷 祈梨(わらや いのり)は一般人
そんな私がなぜ入学できたのか
それは婚約者の桜庭 恭吏(さくらば きょうり)くんのおかげといっても過言ではない。


クラスメイトA「ねぇ、この時間に桜庭くんが教室にいるって珍しくない?」

クラスメイトB「今日は何をやらかすんだか...」

クラスメイトC「桜庭といったら、婚約者がいるのにも関わらず遊び惚けてるって...」

クラスメイトD「婚約者って言ってもアレだろ?」


クラスメイトの好奇の目にさらされているのは私
もとい、私たち
アレって言うのは私のこと
彼が婚約者がいるのにもかかわらず他の女の子たちと遊んでいるのも本当のこと


みんなはひそひそ話してるつもりなんだろうけど、ばっちり聞こえている



恭吏「祈梨、婚約を白紙に戻さないか」


普段お昼は別で過ごそうと言っていた彼が私に話しかけてくれた
そもそも学校内で私たちが会話するなんてことはあまりない
いや、1度もなかった


内心嫌な予感がいっぱいで問いかけてみると、悪い予感は的中
私との婚約を破棄したいらしい。
そんな彼の声は教室にいた人たちには聞こえたようでみんな一斉にこっちを見てきた。


一度決まった婚約を取り消すことは難しいと彼も知っているはず。
この婚約は桜庭家の当主様が決定なさったこと。
なのに......


恭吏「今までは父の意向に従ってきたが、限界だ。
お前は何をするにも能がないだろう?
会社を引き継ぐのは俺だからな。
君よりもっと相応しい恋人をつくるべきだ。」


確かに私たちは同い年ってだけで、生まれ育った環境が全く違う。
彼は生まれたときから桜庭家の次期頭首として期待され、物心ついた時には教育を受け始めていたらしい。
らしいというのは私が人伝て(主に使用人)に聞いたことだから。


そんな彼に対して私は彼の婚約者だけれど令嬢ではない。
両親を不慮の事故で亡くなってしまったとき、手を差し伸べてくださったのが当主様だった。
なんでも、両親と知り合いだったらしい。


親戚なんていないも同然で、路頭に迷っていた私
そんな私を使用人として迎え入れてくださり、仕事を取り計らってくれた。
家族を亡くして精神的に追い詰められていた私にとって打ち込むことができるのはありがたかった。



そうして桜庭家で過ごすうちにご子息、桜庭恭吏くんと関わるようになった
年が一番近かった私は彼との時間が多くなり、彼専属の付き人になった
付き人になってしばらくして、いろいろと面倒だから恋人役も兼ねてくれと頼まれた


当主様からも命を受け、婚約者になった
だけど、一般的に御曹司が使用人と婚約なんてない。
聞いたことがないから前例だってないんだと思う。


いつか解かれる命だとしても
だけどいつかは大切にしてくれるかもと淡い期待を抱いていた
だけど、、、


祈梨「そっか。そうだ...よ、ね」


私に婚約破棄を伝えるってことは意中の相手といい感じなのだろうか。
私はお役目ごめんってことなのかな...。


溢れてきそうな涙を抑え込んでヘラリと笑うことしかできない祈梨
そんな祈梨をおいて恭吏は教室を出て行ってしまった