そっか。この人、心配してくれてたんだな。
そのことがとても嬉しい。
「土下座とかやめて下さい。本当に、何をされるのかと怖かったのはあります。…私、」
続けて、カラオケ店で働いていた16歳のときの話をしようと口を開いたが、思うように動かない。唇が重くて仕方がない。
やっぱり、話せない。
天さんのこともっと知りたいとか思っといて、私自身何も話していなかった。聞かれたときに話すだけだった。
でも、これは無理だ。どうしても。
「?どしたの」
土下座から頭を上げて、こちらを不思議そうに見ている。
ふと思った。
言ってしまったら、どう思うんだろう。
触られたんだ。怖い思いしたんだね。可哀想。俺も気を付けなきゃ。さっきはほんとごめんな。男慣れしてないのもわかるよ。
そうやって、言われちゃうのかな。
触られたんだって目で毎日見てくるのかな。
自分の胸の前でぎゅっと手を握る。
触られたあの感覚をすぐにでも鮮明に思い出せるのはどうしてだろう。ふとしたときに思い出してしまう。
「大丈夫?」
思うように言葉が作れない。
「澪?」
気づいたら背の高い天さんが目の前に立っていた。
あっ…これやばい。思い出してしまった。