「ん、なんかついてた」
「…はい。どうも」
なんだそれ。いらないお世話だ。娘のアルバイトを見に来たお父さんか。
今度こそ立ち去ると、ふっーと空気が抜けるように息を吐いた。
顔に付いていたゴミを取られるとか恥ずかしすぎる。
白浜さんとか他の従業員やお客さんに見られていたらどうしよう。友達か、それ以上の関係と思われてしまいそうだ。
そんなの絶対に嫌だし、絶対に天さんのためにもいけないことだと思う。
なんであの人、そんなの考えないんだろう。相手側に問題がある気がするなぁ…
「東條さん」
後ろから掠れた男性の声が聞こえたので振り返ると、少しムッとした顔の店長が立っていた。
「はい」
「爪長いよ。それにエプロンもちょっとズレてるし。休憩所の鏡活用してる?」
「すみません。あまり見てませんでした。」
休憩所はあることは知っていたが、あまり立ち寄ったことがなかった。
鏡なんてあったのか。まあ、飲食店なんだから身だしなみを整えなければいけないというのは当然である。
しっかり反省して、付けていたエプロン整えて、帰ったら爪を切ろうと試みる。