断崖絶壁の崖の上――。



 まるで肉食動物のような勢いで近づいてきた夫人は、わたしの金色の髪をものすごい力で引っ張ってくる。

 彼女のくすんだ金色の長い髪を舞い上げ、さながら夜叉のように見えた。



「い、いたい……わたしにアイゼン様を奪い取るつもりはございません……」



「あの男がお前をどう思っていようと、わたくしを好きでなくてもどうでも良いわ! お前の存在そのものが、わたくしにとって害なのよ! ずっとお前が一人になる機会をうかがっていたの!」



「アイゼン様のお気持ちはどうでもよくて、わたしの存在そのものが、害……?」



 そこまで憎まれるような何かを彼女にした記憶が、アイゼン様が絡むこと以外では想像がつかない。



(なぜそこまで、存在そのものを憎まれているの……?)



「この間、侯爵も何かに気づいた様子だった! お前の正体に気づいたのかもしれない! さあ、わたくしのためにこの崖から落ちて死になさい!」



「わたしの正体……? い、いたっ……!」



 女性の力とは思えない力強さで、崖へと向かってルヴィニ夫人に身体を引きずられる。



「やめてください! ルヴィニ様!」



 このままでは崖から落ちてしまう……



 必死にわたしは抵抗する。





「うるさい女だね! お前を殺せば、何の心配もなく暮らしていけるんだ! お前が死にさえすれば、今度こそわたくしが本当のルヴィニ・メーロになるんだよ!!!!」





(本物の……? 一体どういう……?)





「さあ、さっさと死んでおしまい! メーロ侯爵から何かに勘づいているような手紙も来た……! お前の次にあのジジイも殺してやるよ!!!」



 彼女の発言に戦慄が走る。



「メーロ侯爵は、ルヴィニ夫人の実のお父様でしょう……?」



「あんな爺さん、父親なもんか――!」



(え……?)



 先ほどから、ルヴィニ夫人の発言には驚かされてばかりだ。



 そうしてそのまま、断崖絶壁の崖の先端へと、ずるずると引き連れて行かれた時――。





「待て! ルヴィニ! ルビーを離せ!」





 ルビーの主人であり、ルヴィニの夫であるアイゼンが姿を現した。