夏の日の思い出

 警備員さんが去っていくうしろ姿を、二人で静かに見送ったあと。


「もうっ、あいつら怒らせてどうするつもりだったわけ!?」


 橙哉を怒鳴る声が、途中から涙声になる。

 本当に怖かったんだから……。

 橙哉が殴られてケガでもしたら、どうしようって。

 ぎゅっと握りしめた両方の拳で橙哉の胸を叩こうとして、途中で橙哉にぎゅっと掴まれた。


「ごめん。どうしてもムカついて。……桃香、手、震えてる」

「わざわざ言うな、バカっ」


 両手を封じられたわたしが橙哉の胸に軽く頭突きすると、橙哉がそっと両手をわたしの背中に回した。


「ごめん。ほんと、ごめんな」


 これは——橙哉のことを、はじめて異性として意識しはじめた、とある夏の日の思い出。


(了)