夏の日の思い出

「別にケンカしたわけじゃないので。大丈夫です」

「今からアレ乗りにいこうと思ってるんだけどさ。男だけじゃつまんねえんだって。ねえ、付き合ってよ」


 明るい茶髪の男が、遠くにそびえ立つ大観覧車を指さす。


「わたし、ここで人を待っているので」


 早くどこかに行ってほしい。

 橙哉も、早く戻ってきてよ……。


「そんなこと言うなって」


 ガタイのいい男に腕をぐいっとつかまれ、前のめりになりながら立ち上がる。


「や、やめてください……」


 橙哉、なにやってるの?

 おねがいだから、早く戻ってきて……!

 じわっと涙がにじんでくる。


 あ、そっか。こんなの見たらアイツ、わたしのことなんかほっといて逃げ出すに決まってるじゃない。

 小学校の高学年になっても、近所の番犬が怖くて、家の前を通ることもできなかった男だよ?

 だったら……もう、自分でなんとかするしかない。