あおいさんとの打ち合わせから、二週間ぐらいがたった。あたしたちはそれぞれで歌を録音して、あおいさんの知り合いのMIX師(簡単に説明すると、音をきれいにそろえてくれる人のことだよ。)に音源を渡すことになってる。
 まだ、予定日まで時間があるんだけど、早くできたから、さっき音源をあおいさんに送ったんだけど。
『音源、ありがとうございます。少しお聞きしたいことがあるのですが、今お時間ありますか?』という内容のDMがきた。あたしの歌、良くなかったのかな……。
 びくびくしながら、あたしは、パソコンで通話アプリを開いてあおいさんを待っていた。
「お疲れさまです。くまおんさん。音源良かったです。」
「ありがとうございます! と、お疲れさまです」
音源、良かったんだ。ほっと胸をなでおろす。
「じゃあ、この打ち合わせは一体……。」
「すみません。僕が悪いんです……。実は僕、こういう恋愛曲初めて歌うんです。だからどうやって歌えばいいのかがわからなくて。録音したものを聞いてもイマイチで……くまおんさん、アドバイスをいただけないでしょうか」
 初めてなんだ。確かに、こんな可愛い曲を歌うイメージなかったかも。あおいさんが初めて歌う恋愛曲に参加できるの、嬉しいな。……じゃなくて!
「いいですけど、あたしなんかで大丈夫ですか……?」
「私なんかじゃないです。くまおんさんの音源、とても可愛くて好きです。それから、好きっていう気持ちがあふれていて、本家の女の子みたいに恋してるんだなって感じさせられるんです。僕には、人を好きになる気持ちがまだわからないんです。」
「好きの気持ち……」
 あたしも、恋はしたことない。でも、そう思ってもらえるような歌い方ができているんだ。恋愛ソング、これまでもたくさん歌ってきたけど考えたことなかった。どうしてだろう……。
「そうだ! あおいさんは、何か好きなことはありますか?私、歌うことが大好きなんです。だから、どんな歌を歌うときも、曲の気持ちになるだけじゃなくて、歌うことが大好き、この曲が大好きっていう思いも込めて歌うんです。だから、あおいさんも好きなことを考えながら歌ったらいいんじゃないでしょうか。」
「好きなこと……」
 そのまま、あおいさんは黙り込んでしまった。顔が見えないから余計に何を考えているかわからない……。余計なこと、言っちゃったかな。
「僕、月を見るのが好きなんです。小さい頃、きれいな満月を見て、そこから月を見るのが好きになったんです。こんなことでもいいんですかね……?」
「もちろん!めっちゃいいです!!月が大好きって思いを歌えばいいんです!!」
 月、好きなんだぁ。なんとなくあおいさんっぽいな。
「でも、これはくまおんさんとの恋愛ソングなのに……」
 あ、あたしとの恋愛ソングぅ?! いやいや、そういう意味じゃないよね。コラボ相手だからってことだよね。勘違いしそうになっちゃった恥ずかしい……。
「いいんです!あたしのことは考えなくて!嘘の好きより、本当に好きなことへの好きの方が、絶対、素敵な歌が歌えます!!」
 自分で言ったのに、ちょっとモヤっとした。けど、今は、あおいさんが納得する歌を歌ってほしい。
「あ~……。僕の好きも 伝いたいって 思えたんだ~♪」
ええっ?!あおいさんの生歌だ!綺麗な歌声だなぁ。それに、一気に『キミにラブコール』の男の子が恋してる絵が思い浮かんだ。こんな一瞬で感情を込めて歌えちゃうんだ……すごいな。
「めっちゃいいです!あおいさん、それでいきましょう!!」
「ありがとうございます。……やっぱり、くまおんさんにお願いしてよかった……」
「え?」
 ノイズが入っちゃってなんて言ったか聞こえなかったや。
「いえ、 アドバイスありがとうございます! もう一度歌ってみますね。」