「ふぅ」

 大公アレクサンドの部屋を出たルルは、大きく息を吐き、ホッとしたように胸に手をあてた。

(緊張した……)

 専属侍女になり、今日で三日目。

 とりあえずなんの問題もなく順調に仕事をこなしているが、気持ちはまだ慣れない。

 ガラガラとカートを押しながら、ルルは主人、大公アレクサンドについて考えた。

 この城で働くひと月の間、厨房や食材庫で彼の噂をたくさん聞いた。

 長い戦争に決着をつけて帰ってきた彼は、帝国の英雄である。

 数日前、凱旋した彼を民が歓声を上げて出迎えた。

 ルルは城内の広場でほかの使用人たちと共に、その様子を見ていた。

 歩兵の後に続いた騎馬隊の先頭。甲冑は身につけておらずマントと同様の黒い戦闘服を着ていて、黒馬に跨った彼が大公だと、初めて彼を見るルルにもわかった。

 ひらりと馬を降りた彼は、ひときわ背が高く、逞しい体躯で、強い強い存在感を放っていて。