「閣下。おはようございます」
巻き毛の赤髪で細面。小柄なせいか若く見えるが、アレクサンドより一歳年上だ。
帝都のアカデミーを首席で卒業した優秀な人材で、年中城を空けるアレクサンドに代わり、彼が政務をこなしてきた。
「首を長くしてお待ちしてました。そろそろ迎えに行こうかと思っていましたよ」
ピエールは嬉々としてアレクサンドの机に書類を重ねる。
「別に俺がいなくても困らないだろ」
「なにをおっしゃいます! 冗談はやめてください」
むきになって声を荒げるピエールに、アレクサンドは笑う。
「お前が好きにやったほうがスムーズに運ぶだろうに」
城内の管理はカンタンに任せており、ピエールの仕事は主に領地内の管理だ。
税金の流れや道路や河川に上下水の整備に治安維持。ときには領地民の声に耳を傾けるなど、領主の仕事は山積みである。
いっそ、ピエールに丸投げしたいのが本音だ。彼さえ首を縦に振るなら、この領地をそっくりくれてやろうとさえ思う。わりと本気で。



