復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~

 ひと通り食事が済んだところで、最後にコーヒーカップに手を伸ばす。

 コーヒーは豊潤な香りを漂わせる。

 カンタン仕込みだけあって、好みの酸味が効いた味わいを堪能し、アレクサンドは満足げに口角を上げカップを戻した。

「午後一時に、軽食とコーヒーを執務室に持ってきてくれ。昼食はそれで済ます」

「はい。わかりました」

 にっこりと微笑むルルから視線をはずそうとして、ふと、動きを止めた。

 なんとなく、懐かしい気持ちが湧いてくる気がする。

(笑顔か? もしくは声か?)

 だが、ルルに面影を残す若い女性には心当たりがない。

 ほとんどの時間を戦場で過ごしたせいか、こんなふうに落ち着いて女性と会話を交わすことすら久しぶりだ。

 きっと思い過ごしだと気を取り直した。



 長く城を空けていたせいで仕事が溜まっている。

 遅い朝食の後は、着替えて下の階にある執務室に向かった。

 扉を開けると、ハッとしたように若い男が振り向いた。彼はアレクサンドの右腕、秘書のピエールである。