復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~

「ふぅん。記憶がない、身元不明者か」

 カンタンは「ええ」と頷く。

 身元不明者は、この領地では珍しくない。

 度重なる戦争のせいで、領地内には隣国から逃げてきた者や孤児も多いし、ここはもともと行き場を失った者がたどり着く辺境の地である。

 アレクサンドは、彼らに寛容である。領地民の身元を正そうとはしない。

 ここで犯罪を犯した者は容赦なく取り締まるが、現在が真面目であれば過去は問わないというのが、この地の暗黙のルールだ。

「ルルは明るくて、とてもいい娘ですよ」

 カンタンは情に厚く優しいが、お人好しではない。人を見る目は信用できる。執事として忖度なしにルルを評価しているはずだ。

 憮然としたまま、アレクサンドは考え込んだ。

 これまでの候補者を脳内でズラリと並べてみたが、いずれも可とは言い難い。

 田舎ゆえ仕方がないとは思うし、多くは望んでいないつもりである。