「あ、閣下が帰ってきたわ」

 時刻は昼。

 窓から馬車が入ってくるのが見えた。

「お出迎えしたいから、案内してくれる?」

「はい」

 タウンハウスに夕べ到着し、使用人たちへの簡単な挨拶を済ませただけで、床についた。

 昼食を一緒にとる約束をして、アレクサンドは朝から早速出かけ、ルルはドレスの採寸をしたりと、忙しく過ごしていたのである。

 ルルが玄関に到着するのと、アレクサンドが入ってくるのはほぼ同時。

 どちらからともなく手を伸ばしハグをする。

「お帰りなさい。アレックス。モラン公爵はお元気でしたか?」

「ああ、相変わらずの壮健ふりだ」

 モラン公爵は、長らく中央の政治から遠ざかっていたが、北の守り神といわれる帝国にとって重要な人物だ。

 アレクサンドの動きに合わせて、帝都に来ている。

「ゴーティエ公爵から、三時頃にお見えになると連絡がありました」

「わかった。俺が戻るまでお相手を頼む」

「はい」