復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~

 アレクサンドには気難しいところがあり、首を縦に振らないのだ。

 ルルで十人目、最後の砦である。

「俺は熟練の侍女がいいと言ったはずだぞ」

「ですが閣下、もうほかにはおりません」

 熟練の侍女は皆、アレクサンドに却下された。

 帝都ならいざ知らず、辺境のこの地で、要望通りの人材など、そうそう見つからない。

「ルルはひと月前から厨房で下働きをしておりますが、真面目ですし、なによりよく働きます。コーヒーの淹れ方も教えましたが、要領よくすぐに覚えました。読み書きもできますので、近くに置けばなにかと便利でしょう」

 そういえばと思い出した。

 ひと月前に、新しい侍女が入ったと聞いた記憶がある。

 戦地との行ったり来たりだったし、厨房の侍女では表にでてくることは滅多にないので、見覚えがないのも無理はない。

「確かお前の紹介だったか?」

「ええ、半年ほど前に、山で発見された娘です。身寄りもなく、しばらくうちの家内が面倒をみていました」