復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~

 食べ始めた彼の横で、カートに向き直ったルルは、口の細いポットのお湯でコーヒーを淹れ始めた。

 いつもならコーヒーはカンタンが淹れる。

 不審に思い、入り口近くに控えているカンタンを見ると、彼は意味ありげにニンマリと目を細めた。

 コーヒーは南国で好まれている嗜好品である。

 手には入りにくいというのもあるが、帝国ではあまり浸透しておらず、この城でも好んで飲んでいるのはアレクサンドぐらいである。

 黒い色を不気味がるのもあるし、口にしたときの独特の苦みが慣れない者の舌を怯ませるのだが、アレクサンドは初めて口にしたときから気に入った。

 とはいえ、この城でアレクサンド好みのコーヒーを淹れられるのはカンタンしかいない。

 その彼があえてルルにやらせるとなると、彼女は淹れ方を教えられたのだろう。

 丁寧にゆっくりと円を描くようにお湯を落とす様子を見る限り、器用であるらしいとアレクサンドは思った。