復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~

「ルル、朝食の用意を」

「はい」と女性のかわいらしい声がして、ひとりの侍女がカートを押しながら入ってきた。

 後ろでひとつにまとめた髪の色は薄い緑。

 にっこりと細めた瞳は、青みがかった深い緑色をしている。

 小さな口を開いた彼女は、鈴のような声で「失礼いたします」とアレクサンドに向かってペコリと頭を下げた。

 初めて見る侍女である。

 彼女は伏し目がちに、少し緊張した様子でカートを進め、アレクサンドの前にある丸いテーブルの上に皿を並べていく。

 被せられたクローシュを取ると、スモークチキンやスクランブルエッグなどが盛り付けられていた。

 続けて彼女が、パンの籠を置くと、動いた空気が焼き立ての香ばしい匂いを漂わせる。

 視覚と聴覚を刺激され、沸いてきた食欲のまま手を伸ばしてパンにバターを塗ると、バターはたちまち溶けてパンに染み込んでいく。

 野戦場では、この柔らかさも風味も味わえない。

 平和に味があるとすれば、こんな感じかもしれないと、アレクサンドは思った。