復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~

 彼からすれば大公は息子ほど年が離れているが、大公こそが命をかけてでもついていくべき人物だと、畏怖の念を抱いている。

 赤く輝く瞳、広い肩幅の彫刻のように美しい容姿と相まって、人知を超えた存在であるとしみじみ思う。

 グロワール初代皇帝はドラゴンの化身だという伝承がある。

 二百年のときを経て、単なる言い伝えに変わりつつあるが、カンタンは、伝承は真実であると信じている。そうでなければ、アレクサンド大公が剣を手にしたときの揺らめく赤い剣気や、どんな窮地であろうと一歩も引かない強靭な心身は、人では説明がつかない。

 だが、彼は人だ。

 長い戦争で溜めた疲れが、身体に心に残っているはずである。

 せめて――。

 カンタンはなにかを言おうとして開きかけた口をまた閉じて、部屋をあとにした。



 次にカンタンが来たときには、アレクサンドは風呂上がりだった。

 侍女の手伝いを断り、ひとりで風呂に入った彼は、ソファーに腰を下ろし、タオルで無造作に濡れ髪を拭く。