きっと、普段の私ならば、警戒して断っていたと思う。

それなのに、不思議なもので、

「じゃあ、お願いします」

何故かそう答えた私。

それ以降も、彼とはしばしば駅周辺で出くわすことが多く、その都度、言葉を交わすようになった。

季節はめぐり、ある夏の日、互いに一人で駅前のカフェに入ろうとしていたので、折角だから…と、二人でお茶をしながら、初めてお互いのことをあれこれ話した。

その時おもむろに、尚登という名前、近くの大学の理工学部2年生であること、そして、尚登くんも私と同じく、出逢った頃は失恋直後だったと知ることに。

「私も、まだ失恋から立ち直れてないの」

そう言うと、尚登くんはやけに驚いていた。

「なんか…意外です。京香さんみたいな美人でも失恋するものなんですね」