その日の帰り道。
徒歩や自転車で帰る子たちと別れ、私はひとりバス停に向かっていた。
うちから市民センターは学校を挟んでちょうど反対側だから、歩くとかなりある。
「藤崎ー」
振り向くと、三木が追いついてきたところだった。
「おまえ、バス?」
「あ、うん」
そんななりゆきで、私と三木は並んで駅のバスターミナルへ向かった。
「藤崎、練習サンキューな。すげーいい感じになったじゃん」
「ああ、三木も市民センターの予約ありがと。割り勘で安くすんでよかったよ。やっぱ広い場所で全体練習できてよかったよね。今日でだいぶ感覚掴めたし」
「いや、今日のことだけじゃなくてさ」
三木はくすぐったそうに笑った。
「なんつーか、うれしくてさ。藤崎がここまでダンス有志にマジになってくれんの」
「三木が強引だからでしょ」
私の皮肉もよそに、三木は続けた。
「でも、みんなのために練習のことも色々考えてくれたし、やっぱ俺の目に狂いはなかったってワケだよなっ」
「私のこと見直した?」
「おう」
茶化して言ったつもりが、予想外に三木が素直に認めて、どきりとする。
な、なんだろ。調子が狂っちゃうよ……。
照れ臭いのを誤魔化そうとして、肘で肘をどついてみせる。三木は大袈裟に痛がってけらけらと笑った。
まだ六時前だったけど、辺りは既に暗い。
ハンバーガーショップの前を通ると、ポテトの油っぽい匂いが漂ってくる。
土曜の夜で駅前のロータリーは賑わっていたけど、時刻表を見ると、私が乗るバスが来るまでまだ少しあった。
「なあ、おまえ甘いの嫌い?」
「え? なに? 急に」
「俺、シェイク飲みてえ」
目の前のハンバーガーショップを見やって、三木は言った。
「な、なんで私に聞くの」
「ちょっとくらいつき合えよ。練習のご褒美におごってやっから。ただしSサイズな。バニラ? チョコ?」
「私まだ飲むなんて言ってな――」
「じゃあテキトーに買うからな」
「待って! ストロベリーにして!」
もう、やっぱ三木って強引!
さっさと飲んで帰ろう、と思っていたけど。
外にあるベンチに三木と並んで腰を下ろし、シェイクを飲んだら。
「あ、おいしい!」
なんだか、急にテンションが上がった。
「なんか、踊って疲れたあとだと、甘いのおいしい! シェイク飲むの久しぶりだな。やっぱストロベリーが一番だよね」
すると、三木は隣でチョコレートシェイクをすすって言った。
「そ? おまえ練習じゃよく緑茶とかばっか飲んでんじゃん。甘いの嫌いかと思った」
「そ……そうだったっけ」
言い当てられてヒヤッとした。
そういえば今日も休憩時間、市民センターの自販機で緑茶を買った。
……三木って能天気そうなのに、意外と目ざといし、鋭い。
私だって、甘いものは大好き。いちごミルクやココアもよく飲んでたけど。
茉凛も甘いものが好きで、よく私と同じものを欲しがった。
だからいつのまにか、なにかを選ぶときは茉凛に先を譲るようになっちゃったな。
服だってそう。私は今日も、もこもこしたセーターに、デニムとスニーカー。
茉凛はワンピースにショートブーツとか、いつもかわいい系の服を選ぶ。
私は茉凛と違う雰囲気にしたくて、いつも男の子みたいな服装になっちゃう。
ズルズルズルっ、と盛大な音がして我に返ると、三木はもうシェイクを飲み干したようだった。
「――ぷっはぁ」
「もう、なんだかオッサンみたいよ」
明日から十一月ともなると、コートなしじゃ夜はそろそろ寒いな……。
あ、バスが来た。
ロータリーのバス停のひとつに停まり、乗客がどっと降りてきて、行き先の表示が変わる。三木が乗るバスかと思ったけど、三木は腰を上げなかった。
乗らないの? と聞こうとしたら。
