ミラクル・オンリー・ワン


 文化祭前、最後の日曜日。
 一年のダンス有志メンバーは市民センターの体育室に集まった。
 一度広い場所を借りて、全体が映る鏡を見ながら練習しようって話し合ったの。
 文化祭前日リハーサルの前にそれができるのは、今日が最初で最後。
 集まったみんなそれぞれ、用意した衣装に着替えた。あまりお金はかけられないから、上下白い服装で動きやすいものをそれぞれ自分たちで用意した。
 私は白いオフショルダーに、ショートパンツにレギンス。
 オフショルダーのトップは、茉凛に借りたやつ。
「衣装、すっごくいい感じになったね!」
「うん! やっぱ統一感出るね! チームって感じする! 井上さん、ありがとう」
 アクセントとして、青いキラキラしたものをつけたらどうかな?
 そうアイデアを出してくれたのは、有志メンバーで手芸が得意な井上(いのうえ)さん。
 生地やリボンを安く買えるお店に詳しくて、みんなの分を調達してきてくれた。
 青いサテンのテープや、キラキラしたスパンコールのリボンを、みんなで手分けして衣装に安全ピンで留めていった。シャツの裾に付けたり、パンツのサイドに付けたり。
「おー、すっげえ。マジでダンスチームみたいじゃね?」
 三木も男子みんなとはしゃいでる。三木は白いパーカーにサルエルパンツ姿で、そんなストリート風な恰好もよく似合う。
 ステージの衣装は、ライトの光を反射するものが舞台に映えるとかっこいいの。
「うまくいってよかったー」
 井上さんもほっとした様子だけど、すごくうれしそう。
「よーし、じゃあがんばろ! 今日でダンス完成だよ!」 
 軽く準備運動してから、いつもみたいにステップとアイソレーションの反復練習。
 当日の予定どおりに曲を流して、予定していた振り付けどおりに踊る。
 男子七人のダンス、女子十人のダンス、フォーメーションを変えて全体のダンス。
 ソロパートは三木が躍って、入れ替わって桜井さんが躍る。
 全体のパートでクライマックス、最後のフォーメーションでポーズ。
 衣装着てると、いよいよって感じがする!
 ああ、この感覚覚えてる。すごく緊張するけど、楽しみで興奮するような。
 ダンス発表会の練習で、初めて本番用の衣装を着たとき、うれしくて発表会が待ち遠しかったくらいだったな。
 けれど。
 その日のダンスの調整で、ちょっと困ったことがあった。
「うーん……」
 全体でのフォーメーションのところで、どうしても前列の男子で動きが遅れちゃう子がいる。
 練習での踊りをスマホで動画に撮って見てみたり、私と桜井さんでやってみせたりしてるけど、ひとりだけ動きが合わない。
 私の教えかたがよくないのかなあ……。
 桜井さんと頭を突き合わせて相談し、並びを変えて踊ってみることにした。
高橋(たかはし)、後列に入ってくれる? 前列の子はスペースを調整して」
 後列のダンスは、みんなで繰り返し練習してきたポップコーン・ステップ。
 これなら配置が変わっても、戸惑うことはないはず。
 何度か全体をそれで踊ってみたところ、動きもいい感じにそろった。
「よし、これで振りつけは全部完璧になったね!」
「やったー、ダンス完成!」
 桜井さんと思わずハイタッチしたけれど。
「あーあ、前列で踊りたかったなあ」
「ま、しょうがねえだろ」
 高橋と三木のそんなやり取りが聞こえた。
 ちくっとしたものが、胸の中に走ったような気がする。
 ……前列で踊りたかった、か……。
 その気持ち、痛いほどよくわかる。わかるんだけど……。