数日後。
ダンスの朝練を終えて教室に入ると、有志メンバーの小林さんが話しかけてきた。
「花凜ちゃーん、これ知ってる?」
小林さんがスマホで見せてくれたのは、動画投稿サイトのダンス動画。
けど、それにちょっとビックリして私も思わず見入った。
「えっ、なにこれ!」
ミラーボールが回っている派手な会場で、大人数の女の子が一斉に踊っている。みんな衣装がギラギラ派手な色のジャケットに、タイトなミニスカート。メイクもすごく派手。
なのに動きがピタッとそろっていて、おもしろくて目が離せなくなる。
「去年、ダンスの高校選手権で優勝した学校なんだって」
「……えっ、これ高校のダンス部なの!?」
「こういうダンスも面白いよねー。昨日たまたま動画見つけちゃってさ」
なんて二人で話していたら、そばにいた星那も話に加わってきた。
「あ、それ楓之宮高校のダンス部だろ」
「星那! 知ってるの?」
「毎年、高校ダンス選手権で優勝争いする常連校なんだってよ」
星那の話だと、楓之宮高校はこのダンス部がすごく有名で、過去にはバックダンサーとして年末の 歌番組に出演したり、テレビCMにも出たりしたらしい。
「ここのダンス部に憧れて受験する女子も多いらしいぜ」
「へえー……っていうか、星那ちゃんよく知ってるね。ダンス好きなの?」
小林さんが言うと、星那は得意げに笑った。
「はは、よくぞ聞いたな。『ジェム』のコレオグラファーがこのダンス部のOBなんだ」
「コレオ……グラファー?」
「振付師のことだよ。アーティストの曲の振りつけを考えて、ダンスを教える人なんだってさ。この前の『ジェム』の新曲の特集記事にさ、その人のことも載ってたんだ」
ぱぱぱっと自分のスマホをいじると、星那は「ほら」と、そのネット記事を見せた。
スクロールすると、『セブンス・ジェム』の振りつけ担当の女性の写真が載っている。
プロフィールには確かに、楓之宮高校ダンス部出身って書いてある。
海外でのダンサー経験もあって、高校のダンス部のコーチもするんだって。
「他にも芸能人とか現役のダンサーで、そこのダンス部OBって結構いるらしいぜ」
「そうなんだ……知らなかった……」
ダンサーのことは知っていたけど、コレオグラファーって初めて聞いた。
振りつけを考えて、ダンスを創りあげて、ダンサーに教える仕事。
なんだかダンサーの最上級職みたい! そんな職業があるんだ!
コレオグラファー……かっこいいな。
有名なコレオグラファーやダンサーを輩出している、ダンス部の強豪高校か。
そういえばこの前、進路希望調査用紙が配られたんだった。まだ進路なんてわかんないってそのままにしてたんだったな。提出締め切りは今週中。
なんだか、急に頭の中が冴えてきた気がする。
もっと調べてみなきゃ!
その夜、私は茉凛がお風呂に入っているタイミングを見計らって、キッチンにいる母さんに伝えた。
「第一志望校、県立の楓之宮って書いていい?」
楓之宮高校のことを伝えると、母さんは意外そうな顔をした。
「うちから通うにはちょっと遠いんじゃない? 二時間近くかかるでしょ」
「一時間半くらいだと思うけど……」
「それに花凜なら、母さんはもっと偏差値の高いランクの学校に挑戦してほしいわ」
「うん。第二、第三希望はそういうとこも書くから」
とりあえず、ダンス部のことは母さんには黙っておいた。
「……母さん、このこと茉凛には内緒にしてよね。茉凛、また私の真似するし」
「わかったわよ。茉凛は進路どうする気かしら。飽きっぽいし、成績もひどいし、朝はひとりじゃ起きられないし、困ったものだわ。どうして双子なのに、こうも違うのかしらね」
ああ、まただ。すっと胸が冷たくなる。
……どうしてもなにも、ないわよ。私と茉凛は別人だもん。
双子なのにっていう理屈も、私にはさっぱりわかんない。
たまたま同じ親から同時に生まれた、っていうだけなのに。
そう思ったけど、私は黙っていた。
思ったとおり、その週の夜。
学校から帰ってきたあと、部屋に入ってきた茉凛は私に泣きついてきた。
「花凜ーっ、進路調査用紙なんて書く? 明日提出だよね」
「ああ、あれね……もう提出しちゃった」
「えーっ?」
茉凛が明らかに、ショックを受けたような顔をした。
「いつ? 母さんもなんにも言ってなかったよっ」
「ごめん。昨日出したけど、言うタイミング逃しちゃったの」
正直なところ、茉凛には隠していたけど、しょうがない。
「ね、ねえっ。志望校どこ書いたの?」
「えーと……」
楓之宮のことは黙っておき、第二志望の学校を茉凛に伝える。
すると茉凛の表情はますます曇った。
「……それって、偏差値高いとこだよね。どうしようっ、私じゃ無理だよ……」
「だから、茉凛は茉凛が受けたいとこ、書きなよ」
「…………」
「私と同じとこ書いても、しょうがないでしょ」
「…………」
うつむいて押し黙っていた茉凛は、目をそらしたまま、ぶつぶつとなにか言っている。
「――……んで、……っつも……先に……っちゃうの――……」
「え? なに? 茉凛?」
「……なんでもないっ!」
「ま、茉凛?」
急にかんしゃくを起こした茉凛は、バタン! とドアを閉めて、部屋を出ていってしまった。
……まったく、茉凛ったら……。
ひとり部屋に残った私は、はあっとため息をつく。
花凜と一緒がいい――そんなふうに茉凛が駄々をこねたのは、これまで一度や二度なんかじゃなかった。
でも、もう中学二年生なんだよ?
いつまで私と茉凛は、こんなこと繰り返すんだろ……。
