二学期の終業式の日。
ホームルームを終えて帰り支度を整えていると、星那が言った。
「それにしても、一体どーゆー心境の変化だよ? 妹ちゃんも驚いたんじゃね?」
私は昨日思い立って、学校のあと美容院に行って髪をばっさり切ってもらった。
ちょうど茉凛と同じくらいの、ショートボブ。
今朝、茉凛と一緒に登校したら、一年のみんなの視線を感じたくらい。
私と茉凛がそっくりなのを、みんな今さら面白がっているみたいだったな。
私は星那にふふっと笑った。
「茉凛は似合う! って言ってくれたよ」
「そりゃ似合うは似合うけどさ。てっきり、わざと妹ちゃんとちがう髪型にしてんのかと思ってた」
「わあ、星那にはなんでもお見通しだね。あー、好きになっちゃいそう!」
なんて笑いながら星那と廊下に出ると、コート掛けから自分のコートを取って羽織った。
結んだ長い髪を後ろに払いのけなくていいの、ずいぶん久しぶり。
階段へ向かう生徒みんな、どこかうきうきして見える。
明日から冬休み、クリスマス目前だもんね。
「藤崎さーん!」
呼ばれて顔を上げると、廊下の先からコートを羽織った桜井さんがやってくる。
「あ、桜井さん」
「わあ、マリリンかと思っちゃった。やっぱ双子だね」
「でしょ? 今度、茉凛と入れ替わってこっそり二組で授業受けちゃおっかな」
そんな冗談に、桜井さんはあははと笑った。
双子と言われても、以前のようないやな感じはしないから、不思議だな。
「そうそう。私ね、藤崎さんにどうしても謝りたいことがあって」
「えっ? なあに?」
そんな前置きをされて、つい身構えてしまったら。
「文化祭のときのこと。二日目に、私の代わりにソロ踊ってもらったでしょ?」
「ああ、あれ? だって桜井さん足を怪我してたんだし、しょうがなかったんだから気にしないで――」
「ううん。そうじゃないの」
桜井さんは申し訳なさそうに、でもはっきりと切り出した。
「あのね、足をくじいたっていうの……あれ、嘘だったの」
「ええっ?」
さすがに驚いて声を上げる。隣で星那も目をみはった。
嘘って……なんで? どういうこと?
「ごめんね。あれくらい言わないと、藤崎さんはソロを踊ってくれないと思ったから」
「そんな……でも、どうしてそこまでして?」
「ずっと前に、マリリンから聞いてたの。小学校のときのダンス教室でのこと」
「えっ」
そう言われて思い当たることは、ひとつしかない。
隣の星那は何か言いたそうな顔になったけど、黙っている。
「ずっと前って?」
「去年のゴールデンウィークかな。マリリンと一緒に初めて原宿に行ったとき」
去年……そんなに前から、桜井さんは知っていたの?
「マリリンね、ずっと気にしてたよ。ダンスの発表会、花凜にセンターで踊ってほしかった、本当はずっと一緒にダンス教室通いたかった、って」
「……そう……茉凛が……」
「私ね、藤崎さんがソロを踊るとこ、どうしてもマリリンに見せてあげたかったの」
文化祭の二日目、メイド服姿のまま慌てて駆けつけてきた茉凛のことを思い出した。
そっか。あのとき桜井さんが、茉凛を呼んだんだな……。
フ、と隣で星那がひっそり笑う気配がした。
「……だましてごめんね。怒ってる?」
私はゆっくりと首を横に振った。
「ううん、ちっとも。茉凛にもいい友達がいるんだなってわかって、嬉しいだけ」
「あ、お姉さんぽい発言! ……よかった」
桜井さんが安心したように微笑んだ。すると……
「カナっちー!」
当の茉凛の声に、私たちは振り返る。二組のほうから茉凛がバタバタとやってきた。
「おまたせーっ。あ、花凜も一緒だったの?」
「うん、ちょっとね」
「よーし、じゃあ例のやつ買いに行こっ」
「うん!」
顔を見合わせうなずく茉凛と桜井さんに、私は首をかしげた。
「例のやつって? ふたりで買い物にでもいくの?」
するとふたりはもう一度顔を見合わせ、イタズラっぽく笑った。
「なーいしょ!」
そう言って笑う茉凛は、楽しくてたまらないみたい。
またね、と手を振る桜井さんと一緒に、並んで帰っていった。
「なんだよ、あれ。気になるじゃん、内緒って」
「内緒かあ……」
星那は不服そうに腕組みをしていたけど。
そうだよね。だって、茉凛には茉凛の世界があるんだから。
「私、また髪伸ばそっかな。ダンスやるなら髪がなびくほうがいいし」
「おいおい、切ったばっかで伸ばす話かよ?」
そんな話をしながら、星那と一緒に階段を下りて校舎を出る。
昇降口を出たすぐのところで、三木が待っていた。
「おう、おっせーじゃん」
無邪気な三木に、星那はふふんと笑った。
そしていきなり、三木のコートの胸倉を引っ掴む。
「うぉ、なに?」
「うちの花凜にイカガワシイことしたら、ぶっ飛ばすからな」
「保護者かよ!」
間近ですごむ星那に、大げさに怖がってみせる三木がおかしくて、私は笑った。
「じゃーな、花凜」
「うん。冬休み、電話するね!」
さっそうと去っていく星那の後ろ姿。
やっぱりちょっと寂しそうに見えるのは気のせい?
私にとって星那は大事な親友。星那も、そう思ってくれてるかな……。
星那になにかあっても、私はずっと星那の味方だからね。この先も。
「じゃ、帰るか」
「うん」
なんて言っても、通用門を出たら私と三木の家は反対方向。一緒に帰れるのはちょっとだけ。それ でも、やっぱり並んで歩く時間がうれしいな……。
「トウとケイがさ、また藤崎を連れてこいってうるっせえんだよ」
「あ、じゃあみんなでクリパする?」
「ええー、みんなでかよ?」
子どもみたいに不満そうな顔をした三木。
そんな様子も、兄弟思いの三木も全部、愛おしい。
「そしたら私、茉凛も一緒につれていきたいなあ」
「あー……それトウのやつ、すっげえ喜びそうだな」
呆れたように三木は笑った。
「でも、できたら二人でどこか遊びにいきたいな」
「……おう、俺も。どこ行きたい?」
「どこでもいいよ。一緒なら」
そう言ってから、私はかあっと赤くなった。
自分で言ったのに、なんだかくすぐったいよ……。
同じふうに思ってくれたのか、三木もちょっとくすぐったそうな顔をしている。
通用門は、すぐそこ。冬休みがこんなに楽しみでドキドキするの、初めて。
それは三木がいるから。
大好きな人がいて、自分のことも好きになれたら、きっとみんな、誰だって毎日がキラキラするよね?
クリスマスも、お正月も、その先もずっと。
ミラクルでいっぱいになりそうな、予感――。
《了》
最後までお読みくださった方々に心より感謝申し上げます。(あかね逢)
