ミラクル・オンリー・ワン


 双子には一卵性と二卵性がある。
 かんたんに言うと、見た目がそっくりで必ず同性同士の双子は一卵性。
 見た目もそれほどそっくりじゃなくて、男女になる可能性がある双子は二卵性。
 私もネットで調べて、これくらいの知識はなんとなくあったけど。
 あとになって知った。三つ子にも一卵性と三卵性がある。そしてまれに、二卵性の三つ子が生まれる可能性もあるということ。
「ほんっと、三木なんて苗字で三つ子だぜ。ギャグかよ! って感じだろ」
 ファミレスの四人掛けのボックス席で、私の隣に座った三木は言った。
 三人の説明によれば三木が長男、恵吾君が真ん中、透吾君が末っ子らしい。
 ふたりは顔がそっくりで、ひとりだけ顔が似ていない。
 そんな三つ子を実際に見るの、初めて……。
 二卵性の三つ子。それってどれくらいの確率で起きるミラクル?
「藤崎もなんか頼めよ」
「え……でも……」
 写真つきの大きなメニューをめくって、三木が促したけど。
 どうしよう、今日はお金をあんまり持ってきてない……。
 そんな心配を読み取ったのか、透吾君が笑った。
「へへっ、今日は軍資金あるから俺たちのおごり!」
 得意そうに、透吾君が笑う。
「ぐ、軍資金って?」
「うちの親、親戚の結婚式で二人とも今日と明日は泊まりで出かけてんだ。飯代たんまりもらってんだよー」
 そんな言葉に甘えさせてもらうことになり、みんなそれぞれ食べたいものを注文する。
 ドリンクバーで飲み物を取ってきて、話に花が咲いた。
「今日でやっとおれの学校も期末終わったんだ。うち、遅いんだよね」
 と恵吾君は言って、その隣で透吾君が得意そうに笑った。
「へっへー。うちはとっくに終わって試験休みだもんね」
 試験休みって、期末が終わったら部活や補習だけで、どちらもない生徒はお休みの期間なんだって。休みが多いなんて、ちょっとうらやましいな。
 聞けば、恵吾君は私立、透吾君は県立の中学に通っているという。
「母さんは保護者会や面談のたびに、それぞれの学校に出向くのが面倒! ってたまにぼやいてるよ」
「そうなの? どうして三人とも違う学校なの?」
 素朴な疑問。それを尋ねると、三人は笑った。
「んーなの、単純な話。花凜ちゃん、言わせんなよー」
「つまり、頭のレベルがバラバラってだけだよ」
「恵ちゃん、偏差値たっけーガッコに受かったんだよな。俺はそれなりだけどさー」
「え、それって……じゃあ三木は?」
 隣の三木を見ると、はあっと情けなさそうにため息をついた。
「ま、俺が一番成績悪いの認めるけど。あの時、とうとう運にも見放されてさ」
「ど、どういうこと?」
 悲壮感漂う三木に代わって、恵吾君が説明した。
「唯吾はよりによって、受験の日にインフルエンザになっちゃったんだよ」
「えー。そうだったの?」
 ……それで、三木だけは学区の中学に通っていたんだ……。
 学力がバラバラ。私と茉凛も成績は全然違うから、よくわかる。
 双子とか、三つ子だからって、脳みそまで同じじゃないもん。
 ほどなくして、パスタやハンバーグ、グラタンが運ばれてきた。
「ねえ。唯ちゃんから聞いたけど、花凜ちゃんも双子なんでしょ?」
 おいしそうにカツカレーを頬張りながら、透吾君が聞いてくる。
「うん、そうだよ。双子の妹がいるの」
「写真ないの? 見たい見たい!」
 透吾君は双子にすっかり興味津々みたいだけど、三木は笑った。
「見る必要ねえよ。藤崎の顔にマジそっくりだからな」
「へえ、そっくりなんだね」
 なんだか、透吾君や恵吾君の反応って新鮮!
 そっくりじゃない双子や三つ子もいると知っているからこそ、だよね。
 みんな、漫画やアニメなんかの双子をすぐに想像して、双子イコール顔がそっくり、と思うものだし。私も今日までそう思ってたくらいだもん。
「やっぱ、家だと二人で一部屋?」
「そう。小さい時からずーっと。二段ベッドで上が妹、下が私みたいな」
「ベッドならいいじゃん! 俺たち三人一部屋、布団で川の字だよ。だからもう、うるっさいのなんのって」
 顔をしかめる透吾君の隣で、恵吾君がふふんと笑う。
「えー、うるっさいのは透吾の鼾じゃないの」
「なにぃ」
「それにふたりがプロレスやるたび下の階から苦情きて、いっつも母さん激おこだしね」
「よっく言うぜ! ケイも床ばんばん叩いてカウントとってただろーが!」
 そんなやりとりに、私はみんなと一緒になって笑った。
 ご飯を食べ終え、三木と透吾君が、何度目かのドリンクバーに向かう。
 そんなタイミングで、向かいの恵吾君が意外なことを教えてくれた。
「小学校までは三人とも同じだったんだけどさ……ほら、花凜ちゃんもわかるでしょ? 同じ学校の 同じ学年に自分の兄弟がいるっていうのが、どんな気分か」
「うん……それはたしかに……」
 双子というだけで私と茉凛は珍しがられる。
 そんなつもりはないって周りはみんな言うけど、やっぱり好奇の目で見られるし。
 三つ子だったら、きっとなおさらだよね……。
「小さい頃はずいぶんからかわれたよ。唯吾だけ顔が似てないから。もらわれっこなんだろ、とかね。ちょっと……学校に通いづらくなった時期があったんだ」
「……そうだったんだ……」
 恵吾君が詳しく話そうとしなくても、私にはなんとなく行間が読めた。
 ――もしも妹と顔が似てなかったら、なにもかも許せんのかよ。
 昨日、三木が言った言葉の意味。
 私は自分とそっくりな茉凛のことで苦しかった。
 三木はきっと、兄弟と顔が似てないからこそ、苦しかったんだな……。
「ばあか、やめろっての! こぼすだろ!」
 ぎゃはは、と笑う声に振り返ると、ドリンクバーで三木と透吾君がどつき合っているのが見えた。
 三木たちみんな、仲がいいんだなあ……。
 そんなふうに話しながら、気づけばあっという間に時間は経っていった。