「……いたたっ!」
消毒液の染み込んだガーゼを膝に当てられ、私は小さく悲鳴を上げる。
「もうちょっと……はい、終わりっ」
家に帰ると、茉凛は居間で私の膝の手当てをしてくれた。
私の両膝に手早く絆創膏を貼り終えて、茉凛はてきぱきと救急箱を片づける。
なんだろ、茉凛。いつもトロいのに。なんだか慣れてる?
あ。そういえば。茉凛は一学期に保健委員をやってた……ような?
茉凛をわかっているつもりでも、知らないこと、まだまだありそう。
「お風呂はかなり染みるかもねっ」
「……嬉しそうに言わないでよ」
投げ出したケーキの箱は少しつぶれてしまって、中のチョコレートケーキは見るも無残な姿になっていたけど。
「んー、おいしいっ!」
すっかり崩れたケーキを、結局茉凛がふたつとも満足そうにたいらげた。
お皿を洗いながら、私はおずおずと切り出す。
「あの、茉凛。その……三木から聞いた。進路のこととか、私のこととか、そんなに思いつめてるって、わかんなくて、ごめん……」
「う……ん、でも花凜の言うとおり、自分で決めなきゃいけないの、わかってるんだけど」
進路調査用紙も、茉凛は結局、偏差値と通学圏内で記入して提出したという。
「花凜がダンス有志やって楽しそうで、私すっごく嬉しかったよ。ああ、またダンスやってくれたって思って。でも、やりたいこと見つけてどんどん先に行っちゃいそうで、うらやましくて、置いていかれたみたいで、つらかった……」
「茉凛。進路が違ったって、私たちは姉妹(きょうだい)なんだから。私は茉凛がどんな道に進んだってちゃんと応援するよ」
「……唯吾君が言ったとおりだなあ」
「えっ?」
茉凛は顔を隠すように、紅茶の入ったマグカップを口元へ運んだ。
「おまえの姉貴なら、きっとおまえを応援してくれるだろって、唯吾君に言われたの」
「…………」
昨日、泣いていた茉凛に、三木はそんなことを言ったんだな……。
カップを置くと、また泣きそうな顔になったのをごまかすように、茉凛は話題を変えた。
「ねえっ。唯吾君とはもうつき合ってるの?」
「ええ?」
茉凛、この状況でなに言うのよ。
「ち、違うけど」
「好きなんでしょっ? 唯吾君も花凜のこと好きみたいだし。それ両想いじゃん!」
「な、なにを根拠にそんな……」
「根拠って……唯吾君と話してたらわかるよ。だって唯吾君は私と話すフリして、いつも花凜のこと聞いてきたけどなぁ」
「三木が……?」
「うん。花凜こそ、あんなに私に怒ったのだって……つまり、そういうことでしょっ」
隠したって、とぼけたって、やっぱりなんだって茉凛にはバレちゃうんだよね。
(俺が好……)
す……?
(――きなのは、妹のほうじゃなくて、おまえなんだよ)
あれって、聞き間違い? じゃない……よね?
茉凛とのことで頭がいっぱいだったけど、今になってかあっと顔が火照ってくる。
仲直りしたって、三木に伝えたいな。
私は思い立って、部屋に戻るとクローゼットから小さな紙袋を取り出した。
その中には、三木のスポーツタオルが入っている。ずっと返しそびれたままの。
会いたいな。月曜までなんて待てないよ。
