そのあとはダンス有志みんなで写真を撮った。
一か月間がんばったことを称え合って、缶ジュースで乾杯!
それからすっかりと日が沈んで、後夜祭の時間。
校庭に準備されていたファイヤーストームがもうすぐ点火される。
クラスの子たちとそれを待ちながら、なにげなく校舎を見上げると。
……あれ? 三木?
二階の教室の窓から三木がファイヤーストームを見下ろしているのが見えた。
どうやらひとりでいるのか、誰かと話している様子はない。
さりげなく理由をつけてみんなの輪を離れ、私は二組の教室へ向かった
「三木」
教室内には三木だけだった。
呼びかけると、ようやく三木はこっちに気づいて振り返った。
「校庭行かないの?」
「藤崎。……いや、なんかさ。ダンス有志、終わってみるとあっという間だったよなーって。一か月前がはるか昔みてえなのに」
「だよね。私もそう思ってた」
変なの。いつもテンションの高い三木が妙にメランコリー。
隣に並んで私も窓から校庭を見下ろす。
ファイヤーストームが点火され、わっと歓声が上がった。
不思議と心は穏やかだった。今なら素直に言えそう。
「あの……三木。ありがと。私まだちゃんとお礼言ってなかった」
校庭を見下ろしながら、ごく自然にそう切り出せた。
「へ? 何が?」
「ダンス有志のメンバーに誘ってくれたこと」
気恥ずかしくて三木の方を見られなかったけど、隣ではフッと笑う気配がした。
「練習に来たのはおまえの意思だろ。おれはなーんもしてねえよ」
「してなくないわよ。三木が強引に引っ張り込んでくれなきゃ、やらなかったと思うし」
「強引で悪かったなっ」
憤慨して見せる三木に私もあははと笑い、結局三木も笑った。
組んだ腕を窓の桟にかけ、体を預けた。
「ダンス、楽しかった。本っ当に楽しかった! 踊ってこんなに楽しいの、久しぶりだったの。有志 やらなかったら、またダンスを楽しいって思えなかったかも」
ファイヤーストームの火の粉が、まるで夜空に吸い込まれていくみたいに、立ち上っては消えてゆく。
そんな光景を見るともなく見ていると、三木はぽつりと言った。
「俺さ……サッカー部、辞めようと思ってたんだ」
「み、三木? どうしたの? 急に」
私は三木を振り返る。途方に暮れた子どもみたいな顔……。
「サッカー好きで、サッカー部入ったけどさ。毎日、毎日、雑用と声出しばっか。試合なんて出してもらえねえし。全中だって県予選止まりだったのに、先輩たちはいっつも俺たちにいばってばっかでさ。やっと三年が引退しても、コーチや先生は相変わらず上から目線だし……」
ふう、とため息をついて、三木は続ける。
「好きだったはずのサッカー、全然楽しくなくなってた。それで文化祭の学年有志やることにしたんだ。部活の練習、出たくなくてさ……」
「そうだったんだ……」
文化祭準備期間は、部活より文化祭の準備を優先していいのが、学校の決まり。
好きだったはずのものが、楽しくなくなる。
それ、痛いほどわかるよ。
三木はサッカーだけど、私はダンスだった。
「ダンスはすっげえ楽しかったよ。藤崎やみんなと有志やれてよかった。けどさ、楽しいぶん、ちょっと後ろめたくもなったんだよな。部活から逃げてたし」
「…………」
「この前さ、おまえ、言ってたじゃん」
「えっ? この前? って?」
「市民センターの帰り」
あのバス停でのことを、まざまざと思い出して、胸が締めつけられる。
「ダンスやめたのは、妹のせいじゃないって。自分の実力不足、がんばったつもりだったけど、まだ足りてなかったって」
「う……うん、言ったけど……」
「逃げるためになにかに夢中になるのって、ダッセえじゃん。ダンス有志成功してうれしかったけど、それはみんなと一緒にがんばったからでさ」
今度は窓に背中を預け、三木は天井を仰ぎ見た。
その目が、どこか遠くを見ているみたい。
「俺はサッカー部のほうで、それくらい周りと一緒にがんばったって言えるのか、精一杯やったんだって言えるのかなって思ったらさ……」
たっぷり数秒ののち、三木は大きく伸びをした。
「俺、もうちょっとがんばってみる。部活続けるよ。後輩にも、もっと先輩らしいとこ見せてやんねーと! それに……ハルもいるし」
「三木……」
なんだか、私まで気持ちが明るくなった。
「そうだね。できるよ、三木なら! 私、ダンス部のある高校受けたいんだ。三木が強引に誘ってくれなかったら、またダンスやろうって思えなかったし」
「強引で悪かったなっ」
「あはは。今度、試合見に行ってもいい?」
「おう、見に来いよ。俺様のすっげーとこ見せてやるよ」
変なの。俺様とか言ってるけど、やっぱそういう三木が、一番三木らしいなって思える。
「藤崎」
「えっ?」
ふ、と笑った三木が、今度は妙に大人びて見えてドキリとする。
「サンキューな。おまえのおかげだよ」
「…………」
「じゃ、みんなのとこ行こうぜ」
そう言って三木は先に教室を出ていく。胸が締めつけられて、なにも言えない。
窓の外、ファイヤーストームの火はもう消されて、わずかな灯かりがくすぶっていた。
いや……まだ消えないで……!
ミラクルが消えちゃうみたい……。
消えていくファイヤーストームとは裏腹に、じわっと温かな灯かりが、私の中にともったみたいだった。まるでゆっくり、私を焦がしていくみたいに。
嫌いになったはずのダンスが、また好きになれた。
そのきっかけをくれたのが、三木なんだ。
三木がいなかったら、こんなに毎日がキラキラしなかったよ。
もしも三木がいなかったら……。
