十一月最初の金曜、文化祭初日を迎えた。
 体育館のステージも、同じ演目が二日間行われる。
 いつもの練習場所、体育準備室で私たちは衣装に着替えて本番前の準備をしていた。
「わあ、すっごい! 藤崎さんかわいいー!」
「そ、そうかな」
 かわいいなんて、言われ慣れてないよ……メイクも初めてだし。
 でも正直、いつもの私より、ずっとかわいい気がする! 
 鏡の中の私は髪を編み込んで、サイドの高い位置で結わえている。頭を振って髪が揺れるたび、青いインナーカラーが髪の間でなびいた。
 髪とメイクをやってくれたのは、有志メンバーの中山(なかやま)さん。
 お母さんがヘアメイクの仕事をしているんだって。中山さんも髪のアレンジや舞台のメイクに興味があったみたい。女子みんなの髪やメイクを担当してくれた。
 女子メンバーはみんなそれぞれ、井上さんが作ってくれた青いスパンコールのシュシュを手首や髪につけている。動くたびにきらきらして、いい感じ。
 支度を整えていると、体育準備室のドアをノックして星那が顔をのぞかせた。
「花凜、いるか?」
「あれ、星那。どうしたの?」
「これ、陣中見舞いってやつ!」
 星那は女子メンバーの人数分、模擬店のクッキーを持ってきてくれた。星型のクッキーがふたつずつ、個包装されている。
「わあ、ありがと! みんなで食べるね!」
「ああ。それにしても花凜、すっげーかわいいじゃん! 惚れるぜ」
「うわー。星那に言われると、その気になりそう」
 どっとみんなが笑った。
「そういやさ、妹ちゃんのクラスの模擬メイド喫茶、さっき見に行ってみたらかなりの大盛況で、行列できてたぜ」
「へえ、そうなの?」
 ダンス有志のほうにかかりきりで、私は見に行ってなかった。
 確かに、茉凛がメイド服着れば、男子生徒はたくさん集まりそうだな……。
「花凜、ダンスがんばれよ。ステージ見てっから」
「うん!」
 茉凛のほうはというと、今朝「見に行けたら、見に行くよ」と、あの子らしい言いかたをしていたなあ。
「よし、そろそろだね。舞台裏に集合!」
 私たち一年ダンス有志は二時からのステージだ。もう十五分前。
 女子メンバーも、先に集まっていた男子と合流した。
「おう、おっせーぞ、女子――……」
 三木がこちらを見て、目をみはった。
「どう? 中山さんがみんなの髪とメイク、やってくれたの」
「うん……まあ、に、似合うんじゃね?」
 三木はそっけなく言って目を逸らしたけど。
 え……三木、赤くなった? 今の気のせいじゃないよね?
「さっ、あと五分だよ。三木君、かけ声お願い!」
 みんな茶化し合って、写真撮り合ったりして、いよいよな時間。桜井さんがうながした。
 本番五分前。ダンス有志メンバーは全員で円陣を組んだ。
「よーし、こっから二日間やるぜ!」
「おー!」
 そうして、初日のダンスは大成功だった!
 けど……。


 文化祭二日目。
「あれ? 三木君は? まだこっち来てないよね」
 着替えてメイクをしてもらった私は、桜井さんの言葉に体育準備室を見回した。
 みんな衣装で待機して、女子はまだ中山さんにメイクしてもらってる子もいるけど、三木の姿はない。
「おかしいなあ。メッセ送ったけど、既読にならないの」
「あ、私トイレ行くついでにその辺探してくるよ」
 と私は体育準備室を出た。
 トイレに寄ってから、三木を探して体育館を出る。
 今日は土曜。昨日に比べれば、他校の生徒や保護者もたくさん来ていて、校庭も混んでるなあ。三木はどこ行っちゃったんだろ。
 少し辺りを探して、私はやっと三木の姿を見つけた。
 もう。やっぱりまだ、制服のまま。早く準備しないと。
「三木ーっ!」
 声をかけて近寄ると、三木が振り向く。
「あ、藤崎」
「そろそろ準備する時間だよ」
 近くまで来て初めて、私は三木のそばに私服姿の男の子がふたりいるのに気づいた。
 あ、三木の他校の友達かな?
 背は私とそう変わらないくらいの、小柄な男の子ふたり。片方は眼鏡で、片方は坊主頭。
 だから最初はわからなかったけど。
 間近で見比べてみたら、ふたりは顔立ちがよく似ている。
 あれ? この男の子たちってもしかして、双子なの……?
 私が聞く前に、坊主頭の子が目を瞬かせて、大げさに三木をどついた。
「な、なんだよ唯ちゃん! こんなかわいい子が同中にいるなんて、聞いてねーぞ!」
 え……かわいいって、私のこと?
 面食らっていると、眼鏡の子がプッと笑って坊主頭の子をたしなめた。
「こら。おまえ、がっつきすぎ」
「る、るっせーな」
 ふたりがどつき合っている。三木はそんな様子を笑っていたけど、私に向き直った。
「あ、紹介すんぜ。こいつら俺の――」
 しかし三木の言葉は、そこで途切れた。
「花凜ー! 花凜ーっ!!」
 聞き慣れた星那の、けど、ただごとじゃない様子の声に私と三木は振り返った、
「あ、三木もいたか! よかった、ダンス有志の連中、探してんぞ!」
 取るものもとりあえず走ってきたのか、星那はハアハアと息を切らせた。
「せ、星那? どうしたの?」
「えっと、有志の……ほら、なんて言ったっけ。ソロ踊る二組の女子……」
「桜井が?」
 いやな予感は三木も感じたみたい。急に声が尖る。
「段差でコケて、足をくじいたらしいんだ。有志のメンバーが保健室に連れてってるって」
「ええっ!?」