文化祭当日、私は朝から絶好調だった。今日は何もかもが上手くいきそうだと思った。予感は当たり、午前中のダンス部のパフォーマンスはバッチリだった。これなら午後の腕相撲大会女子部門での優勝は間違いなしだと確信した。練習試合では無敗だったし、何事もなければ、賞品の無料お食事券五千円分ゲットは確実だろう。
その油断があったせいかな。私は階段を三段飛ばしで駆け下りる途中、足を滑らせた。頭から落下する。手を突かないと大怪我だ! と必死に床へ手を伸ばしたとき、誰かに体を支えられた。
「お前、大丈夫かよ!」
階段から転げ落ちそうになった私を抱きとめてくれたのは、同級生のワイ君だった。私の顔を覗き込んで心配そうに尋ねてきたので私は平気だと強がった。それから相手の手を振り払って言った。
「変なとこ触らないで」
ワイ君はブチ切れた。
「助けてやったのに、そんな言い方ないだろ」
「偉そうに言わらないで」
辺りを見回してからワイ君は言った。
「ここだけの話だけど、今のでお前の運気は低下した。うちの学校にいる神様が、お前の態度の悪さに腹を立てたからだ」
何言ってんだ、こいつ! と思ったけど、同時に私はゾッとした。うちの高校は昔のお城の跡地にあるんだけど、お城が建てられる前は神様を祭る神聖な場所だったそうで、地元の人は今も学校の敷地の隣にある小さな祠を参拝に訪れる。
中には学校の内外で神様らしき何かを見たという人もいる。どうやらワイ君もその一人らしい。
でも、そんな話を私は信じられない。ワイ君は占い部で一番の腕利きという評判は聞いているけど、それにしたって運気の低下はないって!
相手にすると変なのがうつりそうだったので、私はワイ君に触られた胸やお尻の部分の制服をわざとらしく手で払ってから、その場を立ち去った。
ワイ君との一件があってから数時間後、私は絶望の淵に立っていた。謎のコンディション不良に見舞われていたのだ。
今のこの状態で、腕相撲大会を勝ち上がれることはできるだろうか?
保健室で休めば治るかもしれないが、ゆっくりしている時間は残されていない。
それでも、ベッドで横になれば少しは楽になるかも……と考え、保健室へ行ってベッドでひと眠りしたら、夢の中に白い人影が現れ「自分は神様だ」と名乗ってきたから驚いた。
神様は言った。この学校の文化祭は神事である、と。いうなれば神に捧げる祭りなのに、お前の不貞腐れた態度で神聖な場の空気が悪くなった、責任取れ! とのことだ。
知ったこっちゃねえ! と怒鳴り返してやりたくなったが、夢の中だとどうもうまくいかない。
そんな私に神は告げた。
「ワイ君に御礼の接吻をしろ。そうすれば万事うまくいくようにしてやる」
何を言ってんだ、この変態! と怒鳴る自分の声で目覚めた。保険の先生が驚いてベッドにやって来た。
「先生、何でもありません。良くなったので失礼します」
私は保健室を出ると占い部が催しをやっている教室へ直行した。部屋の前には行列ができていた。占ってもらおうという連中が多いことに驚きつつ、人の列をかき分け室内に入る。黒いカーテンで雰囲気を出す教室の真ん中に、ワイ君がいた。
「何だ、また喧嘩を売りに来たのか」
占いグッズが載った机の後ろに座っているワイ君は、私の顔を見て不機嫌な口調で言った。その場の空気が悪くなったと、霊感も何もない私でも感じられた。間違いない、神は今、ここにいる。
私はワイ君に近づいた。その顎をクイッと持ち上げ、唇に口づけする。
用を済ませた私はワイ君から手を離した。左右に目をやって「キスはした。今度はそっちの番だから」と言う。硬直しているワイ君を置いて部屋を出る。腕相撲大会が開催される講堂へ向かう。試合開始前、神に祈りを捧げる! なんてことはしない。神頼みは嫌いなのだ。ただ神に、お前の義務を果たせ! とだけは言った。
優勝賞品の無料券を手にホクホク顔で下校する私を、校門の横で待っていたワイ君が呼び止めた。
「なに? 私になんの用なの?」
警戒する私に、顔を強張らせてワイ君は言った。
「どうしてあんなことをした」
「ああ、あれのこと? それはね、神様がやれって言ったから」
ワイ君は唖然とした。
「そんな理由で? あれは僕のファーストキスだったんだぞ!」
男のくせにファーストキスがどうとか馬鹿か! と私はせせら笑ってから言った。
「私もそうだから、おあいこ。どう? 一緒に何か食べてかない? 私が奢るから」
断るかと思ったら、畜生め、ワイ君は話に乗ってきやがった。それが私たちのファーストデートとなった。
その油断があったせいかな。私は階段を三段飛ばしで駆け下りる途中、足を滑らせた。頭から落下する。手を突かないと大怪我だ! と必死に床へ手を伸ばしたとき、誰かに体を支えられた。
「お前、大丈夫かよ!」
階段から転げ落ちそうになった私を抱きとめてくれたのは、同級生のワイ君だった。私の顔を覗き込んで心配そうに尋ねてきたので私は平気だと強がった。それから相手の手を振り払って言った。
「変なとこ触らないで」
ワイ君はブチ切れた。
「助けてやったのに、そんな言い方ないだろ」
「偉そうに言わらないで」
辺りを見回してからワイ君は言った。
「ここだけの話だけど、今のでお前の運気は低下した。うちの学校にいる神様が、お前の態度の悪さに腹を立てたからだ」
何言ってんだ、こいつ! と思ったけど、同時に私はゾッとした。うちの高校は昔のお城の跡地にあるんだけど、お城が建てられる前は神様を祭る神聖な場所だったそうで、地元の人は今も学校の敷地の隣にある小さな祠を参拝に訪れる。
中には学校の内外で神様らしき何かを見たという人もいる。どうやらワイ君もその一人らしい。
でも、そんな話を私は信じられない。ワイ君は占い部で一番の腕利きという評判は聞いているけど、それにしたって運気の低下はないって!
相手にすると変なのがうつりそうだったので、私はワイ君に触られた胸やお尻の部分の制服をわざとらしく手で払ってから、その場を立ち去った。
ワイ君との一件があってから数時間後、私は絶望の淵に立っていた。謎のコンディション不良に見舞われていたのだ。
今のこの状態で、腕相撲大会を勝ち上がれることはできるだろうか?
保健室で休めば治るかもしれないが、ゆっくりしている時間は残されていない。
それでも、ベッドで横になれば少しは楽になるかも……と考え、保健室へ行ってベッドでひと眠りしたら、夢の中に白い人影が現れ「自分は神様だ」と名乗ってきたから驚いた。
神様は言った。この学校の文化祭は神事である、と。いうなれば神に捧げる祭りなのに、お前の不貞腐れた態度で神聖な場の空気が悪くなった、責任取れ! とのことだ。
知ったこっちゃねえ! と怒鳴り返してやりたくなったが、夢の中だとどうもうまくいかない。
そんな私に神は告げた。
「ワイ君に御礼の接吻をしろ。そうすれば万事うまくいくようにしてやる」
何を言ってんだ、この変態! と怒鳴る自分の声で目覚めた。保険の先生が驚いてベッドにやって来た。
「先生、何でもありません。良くなったので失礼します」
私は保健室を出ると占い部が催しをやっている教室へ直行した。部屋の前には行列ができていた。占ってもらおうという連中が多いことに驚きつつ、人の列をかき分け室内に入る。黒いカーテンで雰囲気を出す教室の真ん中に、ワイ君がいた。
「何だ、また喧嘩を売りに来たのか」
占いグッズが載った机の後ろに座っているワイ君は、私の顔を見て不機嫌な口調で言った。その場の空気が悪くなったと、霊感も何もない私でも感じられた。間違いない、神は今、ここにいる。
私はワイ君に近づいた。その顎をクイッと持ち上げ、唇に口づけする。
用を済ませた私はワイ君から手を離した。左右に目をやって「キスはした。今度はそっちの番だから」と言う。硬直しているワイ君を置いて部屋を出る。腕相撲大会が開催される講堂へ向かう。試合開始前、神に祈りを捧げる! なんてことはしない。神頼みは嫌いなのだ。ただ神に、お前の義務を果たせ! とだけは言った。
優勝賞品の無料券を手にホクホク顔で下校する私を、校門の横で待っていたワイ君が呼び止めた。
「なに? 私になんの用なの?」
警戒する私に、顔を強張らせてワイ君は言った。
「どうしてあんなことをした」
「ああ、あれのこと? それはね、神様がやれって言ったから」
ワイ君は唖然とした。
「そんな理由で? あれは僕のファーストキスだったんだぞ!」
男のくせにファーストキスがどうとか馬鹿か! と私はせせら笑ってから言った。
「私もそうだから、おあいこ。どう? 一緒に何か食べてかない? 私が奢るから」
断るかと思ったら、畜生め、ワイ君は話に乗ってきやがった。それが私たちのファーストデートとなった。



