「それでも、ありがとうございます」
紋さんは私にがきついてきて耳元でお礼を言った。
「菜々穂、助けてくれてありがとう。弟には菜々穂のことは内緒にしておくから」
「えっ、知っていたの?」
「爽太郎とは同じ学校、もしくは同じクラス……なんでしょ。だからさっき足を止めた」
私も紋さんに囁くように呟く。
「紋さん、内緒にしてくれてありがとう」
初めて紋さんと抱きついたことに心がほっとした。
「それじゃ、私はここで、さようなら」
何だか恥ずかしくなった私は一歩一歩後ろに後ずさりをしながら帰路に着く。
ーーこれが九本爽太郎とヤンキーの姿をした菜々穂の出会いの始まりだった。

