「あ?」

「チトセ?」

「佐々木だよ。佐々木千歳。コース同じの」

「そんなのはイナイ」

「……」

「チトセ、イナイ」


 どろり、小野寺のカオが溶けた。

 根が生えたように動けない俺の足に、溶けた小野寺の妙にカラフルな液がのびてくる。原色の景色が歪む。そういえば、俺、空の上に逆さまに立って……

 ――……スローモーション。




「チトセイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイ」




 ねっとりと迫ってくる元小野寺に反射的に足が動いた。


「ぅわぁああぁああ!!」


 走る。走る。
 こんな走るのは高校の時以来だ。
 息が苦しい。肺が焼けそうだ……!

 ぐら、と体が傾いた。
 赤くてネバついた空から足を踏み外して――

 落ちる――――……