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浅黄(あさぎ)くん、いまかえるとこ?」


 本館をでたところで、雨音にまじって聞きなれた声がした。
 かるい衝撃といっしょにまわされた腕をひっぺがしながらふりかえると、予想通り千歳(ちとせ)がたっている。


「急に抱きつくなよ……」


 つとめてめんどくさそうな顔をつくると、「えー」と千歳(ちとせ)が不満げにかえしてくる。
 授業終わったらさっさと帰るべきだった。いや、裏門からにすべきだったか。でもコイツどこにでもあらわれるからな……。
 苦々しく思いながら千歳(ちとせ)を見おろす。家が隣どうしで幼稚園からいっしょの幼なじみのコイツは、ヒマがあれば「すき」だの「つきあって」だの言ってきて、何回ことわってもしつこく迫ってくる。大学も同じになってしまい、おまけに学科までいっしょの始末だ。