◇  ◇  ◇


 はっと気づいたときには、息を切らせて千歳の手をつかんでいた。


「お前、なに」


 それだけが口から出て、千歳を傘のそとに引きずりだすようにした。先輩は傘片手に「え」みたいな顔をしていたけど、よくおぼえてない。

 ダッと腕をひいて駆けて、千歳を正門のわきのレンガのくぼみのようなところに押し込んだ。ぽかんとしている千歳のうしろに『消火栓』の文字が見きれている。
 ふたりで雨宿りするには軒下のスペースはぜんぜんなくて、向かいあって立つと体半分くらいが濡れていくのがわかった。でも、そんなことは気にならなかった。


「なに、お前」


 さっきとおなじようなことを口走る。


「つぎはあいつ? もう乗りかえたんだ?」


 千歳は、ずっときょとんとしていたけど、だんだん不安げな顔になってきた。
 絶対さっきはにこにこしてたくせに、なんだその顔。


「避けてるだろ。俺のこと」


 今から俺、勝手なこと言うな、と思いつつもとめられなかった。