でかいビニ傘に誰かとふたりではいって歩いている。たぶんだけど、サークルの先輩かな。2年の男の。

 「傘忘れちゃって。いれてくださ~い」とかヘラヘラしてる千歳の顔がかんたんに思い浮かぶ。それか「先輩、傘いれてあげますよ」だ。

 そんなにくっつかなくてもいいような感じで肩をよせあって視界から消えた千歳と先輩が、頭のなかで何回も再生される。ゆっくり。

 俺みたいなやつのことやさしいとかいうくらい頭がゆるい千歳だったら、ほかのやつにちょっと親切にされただけで、ころっと気が変わるんじゃないか?

 先輩は傘のなかでなんて思う? 千歳にくっつかれて、たぶんまじめに聞かなくてもいいような話を千歳がずっとしていて、たまに目があったりとかして。

 きゅ、と喉の奥が苦しくなった。

 それできっと、ほかの女子とちがって落ちついててやさしいにおいがする。