夜を照らす月影のように#9

『聞こえているか、人間ども。逃がさない、と言ったんだ』

物の怪が咆哮する。それと同時に凄まじい風が吹く。

……と、飛ばされそう……。

僕は飛ばされないように、足に力を入れた。だけど、体が宙に浮いてしまう。

「メル!!」

ノワールと、近くにいたリオンが僕の腕を掴んだ。

「うわぁ!!」

ノワールとリオンの体も宙に浮く。僕らは、そのまま飛ばされた。

ノワールが咄嗟に放ったらしい魔法で、無傷で僕らは着地する。

周りを見て、目の前にある家を見て、僕の心臓が飛び跳ねた。

……ここ、前世の僕の実家……。

一気に、前世での嫌な記憶が蘇る。体が、震える。

「メル、呼吸が浅くなっているよ?ほら、深呼吸して」

僕の顔を覗き込んだノワールがそう言って、僕の目の前に立った。

ノワールは、僕の中で何が起こったのか察したようで、安心させようとするように、優しい笑みを浮かべている。

視界が、涙で霞む。

「……メル、リオン。一旦移動するよ」

ノワールが呪文を唱えると、視界が一瞬で変わった。涙で視界がぼやけているから、どこに移動したのかは分からないけど。

「……メル、どうしたの?」

リオンの、心配そうな声が聞こえてくる。