夜を照らす月影のように#9

僕は、知っている。君の瞳の裏に隠された気持ちを。
僕は、知っている。君が言えない本当の気持ちを。

僕は、知っている。君が変わろうとしていることを。


なぜかふと浮かんだ詩を頭の片隅に追いやりながら、僕は前世からの幼なじみであるノワールを抱き締める。

ノワールの温もりが、僕に伝わってくる。温かい。ノワールは、生きている。

その事実だけが、僕を安心させてくれるんだ。やっぱり、僕はノワールが好きだ。

僕の脳裏に映るのは、前世のノワール・太宰修也(だざいしゅうや)の笑顔。そして、転生してから見せるようになったノワールの心の底からの笑顔。

その笑顔を思い浮かべただけで、僕の鼓動は早くなる。

「メル、ごめんね」

不意に、ノワールが謝った。

「大丈夫。大丈夫だよ」

ノワールが不安にならないように、僕は優しく声をかけた。

その時、近くに何かが落ちたのか、どぉん!と物凄い音がする。

音がした方を見ると、近くに大きな物の怪がいた。見たことの無い大きさに、僕は驚いてしまう。

「皆、逃げよう!」

ノワールの義理の兄であるリオンの言葉に、僕らは頷いた。

『逃がさない』

「……っ!」

一瞬、誰が喋ったのか分からなかった。

今まで聞いたことのないくらい低い声。周りを見渡してみるけど、僕の仲間以外の人はいない。数秒かけて、僕は物の怪が喋ったのだと理解する。